内と外

アメリカの大地に広がる空間について

アメリカは広い。と思った。アメリカの印象をひと言で言うとそうなる。途轍もない広さをもってその国土は広がる。飛行機に乗って国内を移動しても、車に数時間乗ってレジャーに出かけても、その一点においてアメリカの印象はまったくぶれない。ある時、仕事…

ルーラル地域には銃がある

アメリカで住まった地域は幸いにして銃が日常に顔を出すような場所ではなかったので、その種の身の危険にはまったく遭遇せずにすんだが、アメリカでもっとも嫌なことの一つが銃社会という現実である。 歴史が銃の携帯を正当化する論理を生かすし、社会的・地…

アメリカの中の世界について

アメリカで数年暮らした当初、アメリカ人が「あのイタリア人が」だとか「彼はスウェーデン人だから」などという言い方をするのを聞いて、それはつまりAさんがイタリア系アメリカ人であり、Bさんがスウェーデン系アメリカ人であるということが最初分からなか…

トリプル一杯への苦情

コーヒーやビールの味はけっこう慣れるものだし、慣れるどころか、そちらの方がおいしいと思うところまで、いとも簡単に人の感覚は環境について行くものだと海外生活を通じて思い知った。変わっていないつもりで、いつの間にか変わっている。自分を自律的に…

地面が動いているのを疑うのは難しい

アメリカの競争社会の中で生活していても、慣れてくればそれが当たり前なので何とも感じない。日本からアメリカに渡った頃には「こんなもんまずくて飲めやしねえ」と毒づいていた薄いコーヒーが最後にはおいしくなるし、「コクがなくてサイダーみたいだ」と…

スリッピー

さわやかな初夏の空気が流れ込んでくるような梅田望夫さんの文章を読んで、アメリカに駐在していた頃のことを思い出した。http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20070611/p1小学校2年生でアメリカの現地校に通い始めた長男の現地への適応はことのほかたいへん…

第一球目は直球

松坂大輔がこの春、アメリカでの最初の登板となったボストン大学との練習試合で最初のバッターに、この日最初で最後のヒットを打たれた。明らかに直球待ちの一打は、振り遅れたのが幸いしてレフト線の二塁打になった。話題の松坂からヒットを打った大学生と…

松坂大輔が米国の記者たちとランチした記事に思う

松坂大輔がボストンの地元ニューイングランドの記者たちとランチを取りながらおしゃべりをした記事がいくつかウェブ上に掲載されている。岡島も一緒だが、添え物の扱いになるのは致し方ない。なんだかちょっと可哀想だけれど。 同地最大手の日刊紙ボストン・…

ドイツの携帯電話

2000年というと、もう7年も前になるのかと、あらためて驚いてしまうが、その頃に出した翻訳本の著者はドイツではメディア研究で著名な学者先生で、90年代前半に仕事で知り合って以来、個人的にずいぶんと可愛がっていただいた。背も高く、また横にも大きかっ…

ミュンヘンのスズメ

生まれて初めて外国に行ったのは学生時代、バックパックを担いでの貧乏旅行で、ドイツ、オーストリア辺りを中心にテントを持って都会のキャンプ場を泊まり歩いた。欧州は街のなかにもキャンプ場があって、ユースホステルよりもお金がかからない旅行をしよう…

地方出身者のコンプレックス

福岡空港から都心に向かう地下鉄に乗り、椅子に座って考え事をしていたら、ある瞬間から横に座っている人の声が聞こえてきて、物思いから切り離された。「その、地方っていうの、どういう意味?」声の主は若い、二十代の男の子で、相手はその女友達。耳に入…

感性は国境を越えない(お人形さんの話)

しばらく前に『mmpoloの日記』(id:mmpolo)で、外国で暮らしたある日本人の方の話として、最初はまったく分からなかったが、数ヶ月経った頃からどういう女性が美人かがはっきりと分かるようになってきたという話が紹介されていて面白く読んだ。僕も、しばらく…

感性は国境を越えない(オーケストラの話)

オーケストラの音は楽団によってずいぶん違う。ひとりひとりの楽員の音が違うのだから、当たり前といえば当たり前で、同じなわけがない。東京のオケだって、それぞれに特徴がある。 そのことを認めたうえで、しかしオケの音には地域による特徴が明らかにある…

フィンランドの思い出

転職する以前には年に1度ならず海外に行く仕事をしていた。最後になったのは2000年のスウェーデンとフィンランドで、両国ともに生まれて初めての訪問だった。フィンランドの首都ヘルシンキには4日ほど滞在した。 10月下旬だったが、寒々しい土地だった。フィ…

中華街の魅力

月に一度ほど、気分転換と運動不足解消を兼ねて、横浜の港まで片道ほぼ1時間のサイクリングに出かけるのが楽しみの一つになっている。お昼を挟むようであれば、まず十中八九、行き先は中華街。原色で飾られ賑やかさに沸き立つ街に引き寄せられる理由は、おい…

神秘の日本人

先日書いたとおり、『神秘のモーツァルト』という本を読んでいる。フランスの小説家、フィリップ・ソレルスの著書。モーツァルトの天才を巡るあまたの著作を飾る最新の一冊だが、この本の本来のテーマとはまったく関係のない感想を一つ。同書の7ページ目にこ…

ITベンチャーは秋葉原を目指す、でいいのか

年末に出た国土交通省の調査結果なんですけどね。「ソフト系IT産業の実態調査」っていう、いかにも経産省がやってそうな調査をなんでまた国土省がと思うが、調査設計を読んでみるとこれがなかなかしぶい。NTTのタウンページを繰って、IT企業の立地の変化を…

アジアの田舎となって気楽に暮らす

このタイトルは週刊東洋経済2006年12月30日+1月6日合併号の「ニッポンはどこへ行く?」と題したインタビュー記事に掲載されている堺屋太一さんの言葉です。同誌から引用します。 戦後の日本には国家コンセプトが二つありました。第一は「日米同盟を基軸に経…

再度いじめについて

久しぶりに会った顔見知りのフリー編集者に最近ブログを書いていますという話をしたら、非常に洗練された遠まわしな表現でネガティブなコメントをされた。そのときはそれが非難や批判の類には聞こえなかったのだが、あとで考えてみると、どうやら彼の言わん…

いじめについて思う

いじめによる自殺の問題を扱ったブログをいくつか見るうちに明治大学助教授の内藤朝雄さんのブログにぶつかった。いじめの問題を取り上げてきた研究者の方。初めてその主張に接して、ブログで読むことができる範囲に関しては、全面的な支持を表明したいと思…

Happy Halloween!

昨日のエントリーにコメントを残してくれたBeatLogさんは、ある日本の伝統産業に対してマーケティング関係のサービスを提供する会社の経営者。昨日お会いした際に、話は勢い、「和」や伝統、文化と実業、四季など日本が本来持っているよきもの、よきことをめ…

ベルリン・天使の詩

20代の半ばに転職をしたときに一週間の休みができた。未だ独身で、お金は少ししかなかったが義務も責任も同じように少ししかない20年前は何とも身軽だった。西ベルリンに行った。友人の所に転がり込んで、美術館に遊んだり、音楽を聴いたり、昔の操車場跡の…

人間、違うのが当たり前だ

このブログは控えめに見ても3分の1は『三上のブログ』とのブログ同士の交歓によって成立している、させていただいていると僕自身は感じているのですが、昨日書いた内容に関して頂戴した往復書簡的エントリーにまたまた感じ入りました。 三上さんはこうお書き…

ほめ上手

アメリカで生活してみて素晴らしいなあと思うのは、人を褒める文化の存在です。とくに教育の現場で如実にそれを感じます。good! great! wonderful! fabulous! perfect! splendid! gorgeous! そんな感嘆符付きの形容詞が子供たちを元気づける。英語にはなんて…

外国

初めて見知った外国は得てして盲目の信頼を寄せる対象になりがちだ。音楽好きだった僕の場合、ドイツがそんな存在だった。ドイツ語でFernweh(彼方に対するあこがれ)というやつ。でも、あなたではない私にあなたのことは分からないように、外国の理解もまた…

インターネットと初等教育

一昨日のエントリーで、bookscannerさんが書いた一連の記事に刺激を受けたことを枕にグーグルやインターネットと宿題という話題を書いたら、editechさん、bookscannerさん、rairakku6さんがそれぞれ実に印象的なコメントを残してくれました。さらにbookscann…

HASHIさんの憂慮

講演、取材対応、創作、展覧会のケアと無茶苦茶にお忙しそうな写真家の橋村奉臣さんと恵比寿のイタリア料理屋で夕食。写真家の熱情と好奇心が言葉となってほとばしった。世界で戦っている人のエネルギーをお裾分けしていただく。 具体的にご紹介することはで…

N響の音

ニューヨークに住まった4年間の間、浴びるほどオーケストラを聴いた。ニューヨーク・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートは最上階ならば十数ドルで聴くことができる。カーネギーホールに来る欧米の一流オーケストラも3階の桟敷の三十数ドルの席で楽しめ…

『コンサートは始まる』補記

ここ2,3日使っている被写体に関し、「写真はどこ?」というご質問を頂きましたので、ネタをご披露しますと、写っているのは横浜港にある「赤レンガ倉庫」と呼ばれる建物です。明治時代から倉庫として使われた後うっちゃっておかれていた建造物を横浜市が引…

世界で戦うのは楽じゃない

小澤征爾さんは毀誉褒貶が相半ばする音楽家だ。日本では、その人柄に惹かれる大勢のファンに囲まれ、マスコミからは“世界のオザワ”と褒めそやされているが、2002年までほぼ30年にわたってボストン交響楽団の音楽監督を務めたアメリカ、とくに地元ボストンや…