『コンサートは始まる』補記

ここ2,3日使っている被写体に関し、「写真はどこ?」というご質問を頂きましたので、ネタをご披露しますと、写っているのは横浜港にある「赤レンガ倉庫」と呼ばれる建物です。明治時代から倉庫として使われた後うっちゃっておかれていた建造物を横浜市が引き取り、リニューアルして数年前から商業施設として使い始めました。日本はこうした風景を大事にしていないので、残念なことに絵になる建物は数限りがあります。

■赤レンガ倉庫(横浜市港湾局)


今日は、昨日のエントリーに関して少し補足させていただきます。
ご紹介した『コンサートは始まる』はアマゾンを覗くと、300円代で中古が出回っているようです(2006年9月2日現在)。


なお、米国amazon.comのサイトを見ると、原著『In Condert』はまだ新品が流通しているようです。書評が4つだけなので、やはりマイナーな本ではあるということにはなると思いますが、評には高い点がついています。英語自体は推理小説よりも平易なので、洋書を苦にしない方であれば、こちらでお読みになるとより実感が伝わってくること必定です(日本版が面白かったため、僕は辞書片手に英語版でも読みました)。ただし、「三連符」「小節」など一般には馴染みがない音楽用語が出てくるのが少しだけ煩わしいところです。

■Amazon.comの『In Concert』(『コンサートは始まる』原書)のページ


また、この本の中で取り上げられている小澤征爾指揮ボストン交響楽団による「マーラー交響曲第2番」の録音は、今も大きなCD店の棚には並んでいるはずです。もちろんアマゾン・コムでも購入できます。小澤さんの最良の録音の一つではないかと思われますし、この本を読むと思わず聴いてみたくなり、「これが、チャーリーのトランペットの音かぁ」と感慨に浸ることになります。

マーラー:交響曲第2番「復活」

マーラー:交響曲第2番「復活」


『三上のブログ』の三上さんからは「夏目漱石を連想しました」というコメントを頂戴しました。知識人の末裔という意味で、小澤さんの立場はなるほどおっしゃるとおりで、たしかにダブって見えます。しかし、漱石がロンドンでは単なる異邦人として「不愉快」な数年間を過ごして帰朝したのに対し、小澤さんはボコボコに叩かれながらも、誰もが認める地位を維持してきたのですから、二人の生きた時代の間に橋の下を多くの水が流れたのだと申せましょう。ただ、二人の間にある時間の隔たりはわずか数十年なんですね(年表によると漱石の留学は1900年、小澤のボストン交響楽団音楽監督への就任が1973年)。

何れにせよ、昨日の感想はあくまで日本人たる僕の読み方で、著者がテーマにしているのはメジャー・オーケストラの実態とそこで繰り広げられる人間模様であることは付記させていただきます。


また、Wikipediaの「小澤征爾」には「一人の指揮者が30年近くにわたり同じオーケストラの音楽監督を務めるのは珍しく、それだけ小澤と楽団員の仲が良好であったと考えられる。」という記述が見られますが、これは典型的な日本国内の受け止め方で、実態がそのような牧歌的な関係ではなかったことは『コンサートは始まる』を読めば明らかです。地元での不評にもかかわらず小澤さんが音楽監督にとどまっていることについては、米国のメディアは折に触れてジャパン・マネーの介在について言及していたと覚えています。ことほど左様に外国のことについては、よく見えているようで見えていないことがたくさんあるのではないかと思われます。このことについて日本のメディアの罪は少なくないですね。

■Wikipediaの「小澤征爾」