ミュンヘンのスズメ


生まれて初めて外国に行ったのは学生時代、バックパックを担いでの貧乏旅行で、ドイツ、オーストリア辺りを中心にテントを持って都会のキャンプ場を泊まり歩いた。欧州は街のなかにもキャンプ場があって、ユースホステルよりもお金がかからない旅行をしようと思ったらこれに限る。忘れもしない1980年のこと。



もちろん初めての外国だから見るもの全てが物珍しいわけだが、都会のスズメがあまりに人を怖がらないのも強い印象を受けたことの一つ。今でも忘れないが、戸外のカフェでコーヒーを前に街ゆく人を眺めてると、足下をスズメが歩いて通り過ぎる。パンのおこぼれを目指して、あちらこちらを行ったり来たり。人が投げた食べ物にさっと寄ってくるところなど愛嬌の塊だ。それが不思議で、不思議で、何故ミュンヘンのスズメはこんなにも警戒心がないのか、まるで鳩ではないかと唸ってしまった。それはけっきょく人間の側に取って食ったり、意地悪をしたりする意図がない、それを鳥たちが分かっているということだろうと考えてみて、そうした関係ができるのにどれほどの時間が必要なのか、どのような人間世界の了解が存在しているのかと、たまさかの想像に遊ぶことができた。その頃の僕は、こうしたことは欧州の民度の高さ、文化的な洗練の表れではないかと感じていたはずだ。


それから四半世紀が過ぎた日本の都会で、足下をとんとんとスキップしながら通り過ぎるスズメに出会う経験をする。一度のみならず。横浜でも同じようなことがあった。怖い者知らずの小雀だろうか。そうだとしても、どうやら都会のスズメは少し変わったらしい。日本人の民度は上がったのだろうか。僕の見立て違いか、ほんとうにそうした変化が起こっているのか、できれば専門家に尋ねてみたい。