過去につながるブラスバンド

T君が顧問をする中高一貫の私立学校のブラスバンド部が毎年3月に開催する定期演奏会にここ数年、毎年お招きいただいている。今年も中高生の熱気あふれる演奏を神奈川県民ホールで聴いた。


T君というのは中学時代の友人としては今だにつきあいが続いている唯一の人物なのだが、中学ブラスバンド部の一年後輩で、その頃から音楽が大好きなやつだった。子供の頃からバイオリンをやっており、お茶目でクラシック音楽が大好き。そこで気が合い、いつも二人で「ベームウィーン・フィルブラームスの一番がどうしたこうした」といった類のおしゃべりをしていたっけ。つくづく変わった子供たちだったことだと思う。


そのT君は当然のように音大に進み、バイオリンでプロのオケにも誘われたようだが、最終的に私立高校の音楽教師の道を選んだ。爾来二十年余、音楽一筋の彼は、高校野球で全国的に有名なその学校でブラスバンド部を立ち上げ、休みはアマ・オケの指揮者、指導者として活動する音楽漬けの生活。起きている間、音楽だけに身を捧げてきた彼のブランスバンド部が二十周年の定期演奏会を今晩迎えたのだった。


2月の港北区区民交響楽団の定期、3月のこの学校の定期、そして6月にやはりT君が指揮をする緑弦楽合奏団の3つのアマチュア団体は僕の音楽生活の歳時記を形作っている。3つの演奏会を比べると、生徒さんたちの演奏は技術的にはもっとも稚拙だが、僕の心と不思議な共振をする。学生のブラスバンドの音を聴いていると、あっという間に子供の頃の思い出がちらつき始める。ライトに明るく照らされた舞台は薄暗い客席とは文字通り別世界であり、そこから湧き上がるブラスの音は過去への通り道になる。そこには様々な時間が重畳して存在している。僕の過去と、T君の現在と、生徒たちを待つ未来と。


実に立派なハチャトリアンの組曲「ガイーヌ」の演奏を聴きながら、過去も、現在も、未来も、この空間に溶けているのを感じた。音楽は不思議な時空のトンネルだ。演奏家のうまい・下手を聴く演奏会、作曲家を聴く演奏会ばかりでなく、こういう演奏会もまた人生にとってかけがえがない。若い頃には知ることのなかった人生の楽しみ。年齢を重ねるのは悪くない。