中華街の魅力

月に一度ほど、気分転換と運動不足解消を兼ねて、横浜の港まで片道ほぼ1時間のサイクリングに出かけるのが楽しみの一つになっている。お昼を挟むようであれば、まず十中八九、行き先は中華街。原色で飾られ賑やかさに沸き立つ街に引き寄せられる理由は、おいしい料理のせいばかりではない。そこは日本の日常から、ほんのちょっとだけだけれど逸脱する感覚を味わうことができる貴重な異次元空間だ。

別にこれといった何があるわけではない。ただ、そこには日本人ではない人々が暮らしており、お昼ご飯の間に日本の他の場所にはない何かを感じ取ることができる。こちらにその余裕がなければならないのは言うまでもないけれど。

一人で行けば訪れるのは「馬さんの店 龍仙」。600円でばかでかいスープと一品料理、ご飯とデザートの杏仁豆腐が付いてくる。店の外にはいつも名物おじいちゃんが椅子に腰掛け、「いらっしゃい」「どうもありがと」と声をかけている。冬の寒い日もそれは変わらない。何の変哲もない、フツーの店の佇まいがいい。お客さんと一緒に出かける場所ではない。ただ、最近はメディアに取り上げられているらしく、行列ができていたりする。

先日、龍仙で相席になったお兄さんは、向かいの雑貨屋さんで働く中国人で、訊けば大連から来た人だった。「大連知ってますか?」と尋ねられた。無駄話をして別れ際に彼が給仕のお姉さんに顔を向けて一言、二言。それが僕には理解できない言葉なのがとても素敵だ。

お粥で有名な某店で、人気のない時間帯に食べていたら、ひょこっと幼稚園児ぐらいの可愛い女の子がお店の中に入ってくる。それまで普通に日本語でしゃべっていた店のおじさんが、その瞬間に中国語を話し出す。女の子も正面のおじさん(お父さん? おじさん?)とは中国語、横を向いたてもう一人のおじさんとは日本語と二カ国語を自由に行ったり来たり。そんな時間を掴まえることで、僕が選んでいる日常を自分の心の中で相対化する。肩肘張らずにそんなことができる街が横浜中華街だ。