ITベンチャーは秋葉原を目指す、でいいのか

年末に出た国土交通省の調査結果なんですけどね。「ソフト系IT産業の実態調査」っていう、いかにも経産省がやってそうな調査をなんでまた国土省がと思うが、調査設計を読んでみるとこれがなかなかしぶい。NTTのタウンページを繰って、IT企業の立地の変化を調べましょうという実にやぼったく昔っぽい調査なんだな、これが。いいなあ、こういう地道な調査。もう何年も連続で実施しているらしい。


■ソフト系IT産業の実態調査<平成18年3月時点調査:結果のポイント>(国土交通省)


「我が省でもIT系の調査をやりましょう」って言ったお役人がいて、「そうだ、そうだ」と言ったお役人の上司がいたんだろうね。ここに概要とレポートのPDFファイルがあるけど、これによると、今回の調査時点である2005年の10月から2006年の3月までの半年は開業した事業所数は約3万6千で、前回とほぼ同等の高い伸び。ただし、廃業も多くて、純増分はマイナスだったそうな。この数字の多寡については、諸外国と比べてどうなのか、そこいらの感覚はどうなんだろう。


この調査結果で特筆されているのが、我が国IT産業の中心である東京で、秋葉原駅周辺の事業所数が大きく伸びたという話題。再開発の影響が大きいのではないかと調査結果は述べている。たぶん、そうなんだろう。


そういった世の中のトレンドにベンチャーはとても敏感。渋谷が伸びたり、六本木に人が集まったり、そいでもって、今度は秋葉原の番というわけ。みんなが会議を開いて「秋葉原に行こう!」と決めたわけでもないのに、青年は荒野を目指す、じゃなかった秋葉原を目指す。


もちろん、集積の効果はあるよね。それは分かる。クライアントや協業している会社は近いに限る。いろんな情報交換できるし。ITの話じゃないけど「ライターで独立するなら、絶対に東京に近い方がいいですよ」って、神奈川県茅ヶ崎市に住んでいるフリーのベテラン編集者さんに言われたことあるし。でも、山手線の内側なんて距離としてはたかが知れているわけで、別にみんな物理的なアクセスの便を考えて一緒に固まっているわけじゃない。おしくらまんじゅうやるわけでもないし。要は抱いているイメージの問題だと思う、会社つくる人達の。


一度、アウトロジックの杉本幸太郎さん主催の集まりで一瞬ご挨拶をさせていただいた徳力さんが、「日本のWeb系ベンチャーは遅れてんじゃないか」とここで言っているのを読んで、内容的には全然関係ないこの国土交通省の調査を思い出した。


■世界のウェブサービス競争に取り残されているのは日本だけかも(Work Style Memo)


とっても貧弱な国際的なプレゼンスと期を見るに敏というよりほかに表現のしようがない立地場所選び。「そんなのかんけーねーだろーが」と言われちゃいそうだが、そうかなあ。一方は僕ちゃん英語できないもんねーという話であり、他方は純粋に不動産市場の話であるかもしれず、たしかに関係ないと言えばナンにもない。あるわけない。でもね、それよりも何よりもなんだか大志の問題、経営者が抱いているイメージの問題という意味で、この二つには負の相関がなかりしか?


茂木健一郎さんが小林秀雄賞を受賞した『脳と仮想』の中で夏目漱石の『三四郎』の冒頭を引いている。三四郎が広田先生と出会う場面。

「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より・・」でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中の方が広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」
この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出たような心持ちがした。同時に熊本にいた時の自分は非常に卑法であったと悟った」
夏目漱石三四郎』より)


最初から違うことにとらわれちゃっているような気がするんだよね。なんだか。
「おまえに言われたかないんだよ。かんけーねーだろうが」と言われちゃいそう。すいません、関係ないですと謝るしかないんだけど。