音楽

アーノンクールが亡くなった

指揮者のニコラス・アーノンクールが86歳で亡くなった。古楽復活のパイオニア的存在で、この人がいなかったら、クラシック音楽演奏の歴史は違う進み行きになったのは間違いないほどの、決定的な影響力をその世界に与えた人物だった。好きか嫌いかはさておき…

クリストフ・ヴォルフ著『モーツァルト 最後の四年間―栄光への門出』

「ヴォルフガング・アマデーウス・モーツァルトの創作人生の最後の四年間を、早すぎる死という破局に固定化させることなく扱うことはできないだろうか。」という一文で始まる『モーツァルト 最後の四年間―栄光への門出』は、著名なバッハの研究家であるクリ…

ヴァンスカと読響のシベリウス

オスモ・ヴァンスカと読響がシベリウスの交響曲第5番、6番、7番をやるというので聴きに行った(12月5日、サントリーホール)。 ヴァンスカとラハティ交響楽団のシベリウスは5番をCDで所有していて、けっこうイケてると思っていたので、早めにチケットも確保…

生よりテレビの方が音楽が音楽らしく聴こえた話

二つ前のエントリーでブロムシュテット指揮のN響の演奏会のことをさらっと書いた。週末の土曜日に、当のコンサートの模様がNHKで放送されたので録画し、それを先ほど聴いたのだが、いやいや、これはいいコンサートではないか。でも、先日書いたとおりで、NHK…

パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団のマーラー『復活』

パーヴォ・ヤルヴィのN響首席指揮者就任記念演奏会を聴いた(10月3日、NHKホール)。曲目はマーラーの交響曲第2番『復活』。ヤルヴィというと、親父さんを思い出す口で、パーヴォさんを聴くのはわずか2回目。N響で春にシベリウスのバイオリン協奏曲とショス…

ブロムシュテット指揮NHK交響楽団のベートーヴェン

NHKホール、天井桟敷の自由席、E席でブロムシュテット指揮N響のベートーヴェン交響曲第2番と皇帝コンチェルトの2曲を聴いた(9月26日)。今年もブロムシュテットさんは衰えが見えず、オーケストラを駆り立てて音楽を推進させる技は健在。きびきびとしたアッ…

ノット指揮東京交響楽団のマーラー交響曲第3番

ジョナサン・ノットと東京交響楽団でマーラーの交響曲第3番を聴いた(9月13日・ミューザ川崎)。 10代から20代にかけては、世がマーラーブームであったことも手伝って、あらゆる作曲家の中でもっともひいきにして熱心にマーラーを聴いていたものだった。しか…

オクターブが聞こえない

オクターブが分からない。聞き分けられない。自分自身にびっくりしてしまった。 同じ音でしょ、なんでわからんの?と言われてしまった。 いやはや、そのとおり。同じ音ですよね。 お前に言われたかないよ、とは思ったが、思わず、そう、同じ音ですよね、と答…

ノット指揮東京交響楽団のストラビンスキー、バルトーク、ベートーヴェン

一昨日はジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団で、ストラビンスキーの『管楽器のための交響曲』、ラーンキをソリストに迎えてバルトークの『ピアノ協奏曲第1番』、とりにベートーヴェンの『運命』というプログラムを聴いてきた(7月16日・サントリーホール…

デニス・マツーエフはすごかった

先週、テミルカーノフの指揮する読響を聴いた。テミルカーノフがショスタコーヴィチの交響曲第10番を振るので聴きに行こうと考えて買ったチケットで、ショスタコーヴィチの前に置かれた一曲目がプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番というのは知っていた。賑や…

ノット指揮東京交響楽団のブルックナー交響曲第7番

生前、評価を得るのに四苦八苦したブルックナーにとって、交響曲第7番は『テ・デウム』とともにもっとも成功をみた自慢の曲だが、私はあまり得意ではない。おそらく彼の10曲の交響曲(習作のヘ短調交響曲を含めると11曲)の中で、個人的にはもっとも聴く回数…

ブルックナーの風景(14): ブルックナーなんて誰も(とは言わないが)興味ない

というわけで、この3月に行ったブルックナーをめぐる旅のエントリーはこれでおしまいです。起承転結のなく、これといったメッセージのない、ただブルックナーという作曲家の存在に寄り添っただけのエントリーで、ブルックナーに興味がない方にはまるで面白み…

ブルックナーの風景(13): 『交響曲のハイキングコース』を通ってブルックナーの生家へ

ザンクト・フローリアンの町では、観光客向けに聖フローリアン修道院を中心として四方にいくつかのハイキングコースが設定されています。午前中の修道院ツアーの後、昼ご飯を食べてから、これらのハイキングコースのうちでもっとも長い『アントン・ブルック…

ブルックナーの風景(12): ブルックナー・オルガン、墓碑、棺

聖フローリアン修道院のゲストハウスにチェックインをし、旅装をほどくと、すぐその足で聖堂に向かいました。聖堂とは、英語のbasilica をここではそう呼んでいるのですが、ほんとうは何と書けばもっとも不都合がないか、しっくりくるのか、キリスト教の知識…

ブルックナーの風景(11): 聖フローリアン修道院の「大理石の間」

聖フローリアン修道院は、春から秋のシーズンには観光客向けにガイドツアーやオルガン・コンサートを開催しているのですが、私が出かけたのは3月でしたから、これといった催し物はなく、そうすると入れる場所、見学ができる施設は限られてしまいます。それは…

ブルックナーの風景(10): 聖フローリアン修道院に泊まる

ザンクト・フローリアンはリンツの街から南南西に18キロ、乗り合いバスで30分ほど下った森と畑が広がるエリアに存在する町です。このザンクト・フローリアン(聖フローリアン)というドイツ語の地名ですが、日本語では聖フロリアヌスという3世紀に実在した人…

ブルックナーの風景(9): リンツから聖フローリアンへ

ブルックナーはリンツで12年を過ごし、二つの教会のオルガニストとして確固たる地位を築きました。さらにジーモン・ゼヒターとオットー・キッツラーから理論を学んで、ヘ短調の習作交響曲と交響曲第1番を作曲し、本格的に交響曲作家への道を歩み始めた重要な…

ブルックナーの風景(8): リンツ大聖堂とリンツ市教区教会

ブルックナーが32歳の時にリンツに来て12年間オルガニストとして仕えた大聖堂と市の教区教会を訪ねました。巨大なゴシック様式の教会は外から見ても、中に入って天井を仰ぎ見ても、建物が宇宙に向かって突き抜けようとする感覚を覚えさせられます。リンツの…

リンツ

ウィーンを後にリンツに出かけました。およそ200キロ弱。ウィーン西駅から特急列車に乗って1時間半ほどの旅です。 リンツは、ウィーン、グラーツに次いでオーストリア第3の規模を誇る都市ですが、ウィキペディアで調べてみると、人口はたったの19万人で、ウ…

ブルックナーの風景(7): ヴァイヒブルク小路3番地

これもインターネットの世の中になったおかげで、旅行が変わったという類の話です。今回のウィーン旅行ではブルックナーをテーマにして色々と歩いてみたわけですが、そのためにあれこれとネットを検索して情報を仕入れました。その中で、ひとつよく分からな…

ブルックナーの風景(6): カールス教会

カールス教会は、聖シュテファン大聖堂やヴォティーフ教会などと並んで、ウィーンに来ると誰もが自然と目にする印象的な教会です。18世紀初頭に時の皇帝カール6世がペスト撲滅を祈念して建てられたという建物は、巨大な丸屋根とその両脇に屹立する円柱が独自…

ブルックナーの風景(5): ピアリスト教会

歴史に残る音楽家としては異例の遅咲きだったブルックナーは、リンツ大聖堂のオルガニストに就任したのが32歳の年だったのですが、その実上昇志向のあった彼は虎視眈々とより大きな都市でしかるべき地位に就きたいと願っていたようです。ウィーン音楽院(現…

ブルックナーの風景(4): アルサー教会

以前、ブルックナーの弟子であるカール・フルビーが彼の師との最後の邂逅の場面を書き記した文章を紹介したことがあります。オルガンの演奏を終えて教会を出てきたブルックナーと偶然に顔を合わせたフルビーが、師の帰り道に同行する際に「交響曲第9番の第4…

ブルックナーの風景(3): ベルヴェデーレ宮殿

ウィーン旧市街のすぐ外に広がるベルヴェデーレ宮殿は、かのプリンツ・オイゲンが18世紀初頭に作らせた夏の離宮で、今回訪れた場所の中では美術史博物館とともに最も観光地らしい観光地でした。どんよりと雲が垂れ込めた朝の9時少し前に宮殿入口に着くと、開…

ブルックナーの風景(2): ヘス小路7番地

ヴェーリンガー通り41番地からちょうど1キロ、都心の方向に向かって歩くと、ウィーンの旧市街の北西の端にあるショッテントールに着きます。今までウィーンには2度来ましたが、最初に学生の時に来た時には国立歌劇場とその近辺しか歩いていないし、2度目は仕…

ブルックナーの風景(1): ヴェーリンガー通り41番地

今回の旅ではブルックナーの痕跡を尋ねるのをテーマにしました。このブルックナーというのは、私が好んで聴く作曲家というだけのことで、他の皆様にとっては「だから何なのよ」の世界です。たぶん、このエントリーには、「ブルックナー、ウィーン」などと検…

ノット指揮東京都交響楽団のブルックナー交響曲第3番

ジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団でブルックナーの交響曲第3番を聴いた(12月13日/サントリーホール)。ブルックナーの3番を実演で聴くのは去年の春にマゼールとミュンヘン・フィルを聴いて以来。このコンビの演奏は遊び心満載で余裕に満ち、ここ数年…

カンブルラン指揮読売日本交響楽団の『英雄』

カンブルラン指揮の読響を聴いてきた(11月29日、サントリーホール)。モーツァルトの『魔笛』序曲、シューマンの『ライン』、とりがベートーヴェンの『英雄』の3本立て。名画館で『カサブランカ』と『ローマの休日』の2本立てを観てきましたというのにほぼ…

青柳いづみこ著『アンリ・バルダ 神秘のピアニスト』

青柳いづみこの『アンリ・バルダ 神秘のピアニスト』は興味深い読書だった。本を手にとった際の期待を裏切るという点では失敗作と呼びたい出来だし、それが言い過ぎだとしても、これは演奏家論としてはせいぜい佳作というにとどまる程度の内容じゃないだろう…

ジェームズ・ゴールウェイのコンサート

フルートのジェームズ・ゴールウェイのコンサートに行ってきた(10月19日、トリフォニーホール)。ゴールウェイは、20世紀の後半、あるいは最後の四半世紀に名を残すフルーティスト、ランパル、ニコレ、ツェラー、あるいはガッゼローニ、グラーフ、デボスト…