カンブルラン指揮読売日本交響楽団の『英雄』

カンブルラン指揮の読響を聴いてきた(11月29日、サントリーホール)。モーツァルトの『魔笛』序曲、シューマンの『ライン』、とりがベートーヴェンの『英雄』の3本立て。名画館で『カサブランカ』と『ローマの休日』の2本立てを観てきましたというのにほぼ等しい有名曲づくしのプログラムだ。どれも変ホ長調ということで、こういう構成になったのかな。

クラシック音楽好きなら、どれもいやというほど聴いている有名曲なので、こういうコンサートに行くとすれば、どうしたって指揮者とオケの芸を見せていただく、という心構えになる。指揮者のカンブルランは、昨年初めて聴いて(その時はモーツァルトメンデルスゾーン)、これはうわさ通りのよい指揮者だと感心した人なので、わざわざ名曲プログラムに狙いを定め、さてどんな演奏になるのかを聴きに来てみた。そういうノリでやってきたのだったが、2時間のコンサートはなかなかの当たりでした。

指揮者の特徴がとても出ていたのは『英雄』で、たたみかけるような速いテンポを基調に、鋭角なアーティキュレーションを備えたさまざまな形の音のブロックを見事に積み上げていくような、という言い方でどこまで演奏のスタイルが伝わるか分からないが、とても鮮度の高い演奏だった。「ここはこのメロディを聴いてください」「ここはこのパーツに注目してね」という指揮者の主張は明確で、一歩間違えばあざといと言われかねない解釈だが、否定的な感想が出てこないどころか、聴いている最中は「次にどうくるか」とわくわく感にドライブされてしまったのはカンブルランさんの術中にはまった証左だ。あるいはベートーヴェンの天才的な音楽の、懐の深さの証明ということなのかもしれない。

いまさら『英雄』を聴いて語ることかとは思いもするが、あらためて、なんて革新的な曲なんだろと感じ入ってしまった。本当の新しさ、革新性っていうのは、いつまでも新鮮で古びないものなんだなと聴きながら感じていたのだから、これを自分にとってのよい演奏会と言わずしてどうしよう。読響のアンサンブルがしっかりと落ち着いていたかというと、そこの部分はちょっとで、先日のブロムシュテットN響の、フレーズの中にすら微妙なニュアンスがあるような演奏に比べると剛直そのものだったが、そこに不満を言っても仕方がない。普段と違う解釈を数日の練習でカバーするプロの演奏家はすごいですよ。

実演で『英雄』を聴くのはほぼ40年ぶり(あれは日フィルで指揮はルカーチだったか?)で、人生で二度目。死ぬまでにもう2,3回聴くことがあるかな?