ノット指揮東京交響楽団のハイドン、モーツァルト

前日まで熱が出たり、胃痛が続いたりして、これはコンサートに行くのは無理かなと思っていたら、朝起きると予想に反して気分はすっきりとしており、初台のオペラシティまで出かけてきた。ノット指揮東京交響楽団のこの日の出し物は、ハイドンの交響曲第86番…

ジェイムズ・R・ゲインズ著『「音楽の捧げもの」が生まれた晩――バッハとフリードリッヒ大王』

バッハの対位法に基づく音楽は実に難解であり、そのロジックを勉強したことがない私のような素人が味わえる部位は限られている。とくにそれを思うのは、その種の音楽として傑作と言われる『フーガの技法』を聴くときで、人好きのするメロディがあるわけでも…

ノット+東京交響楽団の細川俊夫『嘆き』、マーラー交響曲第2番『復活』

2ヶ月の入院など思いもよらなかった頃に購入していた音楽会のチケットのうち、5月に楽しみにしていたブルックナー5番の2つのコンサートは問答無用でキャンセルとなってしまった。人づてに聞くと、ともにいい夜だったようなので口惜しい思いをしたが、7月1…

平野啓一郎著『マチネの終わりに』

平野啓一郎の『マチネの終わりに』は、形の上では恋愛小説だけれども、同じ著者の『ドーン』がSFの形を取りつつ、実際にはコミュニケーションの問題を掘り下げようとしているように、主人公二人の恋愛それ自体の成り行きを出来事の柱としながら、恋愛につい…

平野啓一郎著『ドーン』、『私とは何か――「個人」から「分人」へ 』

入院患者となって無聊をかこつ身になり、体力の続く範囲で読書をした。読んだ本のうち、話題の音楽コンクール小説について語気は控えめに「物足りない」と感想を書いたら、それを読んだ友人が、おそらく音楽家を主人公にしている良質な小説という意味で、平…

友達とIT技術の有難味

昨日午後、ブログ仲間が企画したお楽しみ会が某所であり、勢川さん発案のビデオ中継のおかげでバーチャル参加をさせていただいた。「バーチャル」と書いたけれど、それは言葉のあやみたいなもので、無機質な病室に垂れ込めている者にとってはビデオ参加は「…

恩田陸著『蜜蜂と遠雷』

本を読む元気が出てきた。 難しい本、考えることを要求する本に立ち向かう体力はまだないので、よし、エンターテイメントを読もうと思った。そこで選んだ一冊が恩田陸著『蜜蜂と遠雷』である。今年の直木賞と本屋大賞のダブル受賞作。ピアノコンクールを題材…

千客万来

先週末にかけては何人もの友人が病室に足を運んでくれた。 以下の人は個人名を出しても問題ないと思うので紹介すると、金曜日には古い友人であるアウトロジックの杉本さん、その夜には、かの美崎薫さん。土曜日には前週にもお越しいただいた下川さんが木下さ…

二郎さんの番組

昨晩のNHK特集で「すきやばし次郎」の小野二郎さんの番組をやっているのを観た。「寿司の神様」であるところの二郎さんと、「天ぷらの神様」と呼ばれているという天ぷら職人の早乙女さんとの友情と職人魂を描いた番組だった。91歳になって、その分野の頂点に…

病室のドアが空き、そこに大きな人影が現れると

入院すると世話になるお医者さん、看護師さんと家族に毎日の生活を預けているような塩梅で、それが目下の世界のすべてである。 そこに、思いがけないタイミングで友人が顔を見せてくれると、白黒の病室が総天然色、4Kのテレビに変化したかのように感じられ…

生まれ変わったと思いたいが

手術が終わって、麻酔が外された酩酊状態の中、医者に名前を呼ばれ、「聞こえますか?!」と呼びかけられ、その次に目の前に映像のようなものが見えたような、見えないような気がして、それに向かって「はい」と答えると、その後に家族の顔が現れて、声をか…

ベルリンでのN響演奏会評も拾ってみた

N響の欧州ツアーについて、ロンドンでの好評を紹介したので、遡ってツアーを開始したベルリンではどうだったのかも検索してみた。見つけたのはデア・ターゲスシュピーゲル紙の短い評。文章の長さは短いけれど、実にしっかりと聴き、きっちりと表現した一文に…

もう一つロンドンでのN響評からご紹介

昨日に続いてNHK交響楽団の欧州公演評を追ってみた。今日紹介するのは、昨日のエントリーで取り上げたのと同じロンドン公演を、イギリスのクオリティ紙であるザ・ガーディアンが紹介したもの。 ■NHK Symphony Orchestra/Järvi review – an ensemble on brist…

N響の達成

久しぶりのエントリーです。2月の下旬にN響が欧州主要都市をまわって演奏会を催してきた。昨年末にこのブログに書いたように、今のN響ならばそれなりの評価を得るとは思ってはいたが、今日、録画していたベルリンでのコンサートの様子をやっと視聴し、これは…

ノット+東響の『コジ・ファン・トゥッテ』

オペラはほとんど観ない。『フィガロの結婚』も『ドン・ジョヴァンニ』もまだ生を観たことがない。『コジ・ファン・トゥッテ』を聴いたのは、これが生れてはじめて。とても、とても楽しかった!(2016年12月9日、ミューザ川崎)モーツァルトのオペラで観たこ…

ノットと東京交響楽団のシューマン交響曲第2番

「トリが地味な曲だから、このコンサートはやめとこ」と思っていた東響の定期(トリスタンの第一幕への前奏とデュティーユのチェロ協奏曲、シューマンの交響曲第2番の3曲)に行ってきた。一週間前にもらった東響からの営業メールを読んだら、なんだか急にト…

Twitterがオーケストラを導く

この前のエントリーのコメント欄で、id:mmpoloさんがTwitterの影響力について話をしてくれた。その話に触発されて少し書いてみたい。TwitterとFacebookは、ときどき読みますぐらいの利用しかしていないのだが、ここ半年ぐらい、自分が足を運んだコンサートの…

日本のオーケストラは日本の音がする

10月に欧州公演に臨んだ東京交響楽団の、ドルトムントでの新聞評を見つけて紹介したら、常日頃の何倍ものアクセスがあった。何倍なんてものではない。このブログはたくさんに人に読んでもらいたいだとか、お客さんを増やしたいだとかいう動機をすでに忘れて…

シモーネ・ヤング+東京交響楽団のドヴォルザークとブラームス

欧州ツアーから戻ってきた東京交響楽団のコンサートに行ってきた。シモーネ・ヤングの指揮でドヴォルザークのチェロ協奏曲とブラームスの交響曲第4番のプログラムである(2016年11月3日、ミューザ川崎)。シモーネ・ヤングさんは、女性指揮者としては今いち…

ドルトムントでの東京交響楽団のコンサートに対する現地の新聞評

東京交響楽団がジョナサン・ノットに率いられて欧州5都市の演奏旅行を敢行した。そのフィナーレを飾るべくドイツのドルトムントで行われた演奏会(2016年10月27日)の評が、現地の新聞『ルール・ニュース(Ruhr Nachrichten)』のウェブ版に掲載されている。ht…

ノット+東響のベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲ニ短調」、ショスタコーヴィチ「交響曲第10番」

東京交響楽団が創立70周年記念として行う欧州ツアーのもう一つの演目を聴いてきた(10月15日、サントリーホール)。前半がイザベル・ファウストの独奏でベートーヴェンのバイオリン協奏曲ニ長調、後半がショスタコーヴィッチの交響曲第10番。このプログラム…

ノット指揮東京交響楽団のブラームス交響曲第1番

昨日、ジョナサン・ノットと東京交響楽団が欧州ツアーにこれから持っていく二つのプログラムの一つを聴いた(10月9日、タケミツホール)。曲目は、武満徹の出世作で東響が委嘱をした「レクイエム」と、ドビュッシーの「海」、それにブラームスの「交響曲第1…

フィールド・オブ・ドリームス

末期の西鉄から太平洋クラブ、クラウンライターまでのライオンズファン、ダイエー以来のホークスファンだ。ホークスが大好きだった親父が死んでからというもの、思いがけず、ますます熱心にホークスの試合を追いかけるようになった。「黒い霧」で池永が追放…

ユベール・スダーン指揮東京交響楽団のベルリオーズ『ファウストの劫罰』

今日は東京交響楽団の創立70周年記念演奏会と銘打たれた『ファウストの劫罰』をミューザ川崎で聴いてきた。指揮は3年前まで音楽監督をだったユベール・スダーン。『ファウストの劫罰』はオケに独唱、合唱が加わる大曲で、なかなか生で聴く機会がない。曲の最…

ポール・ホフマン著『ウィーン 栄光・黄昏・亡命』

訳者のあとがきによると、本書の著者であるポール・ホフマン(1912-2008)はニューヨーク・タイムズに勤めたアメリカ人のジャーナリストで、数多くのノンフィクション作品を残している人物だが、そもそもの生まれはウィーン。本書は一人のジャーナリストが故…

サーリアホの「トランス」、「オリオン」

火曜日にサントリーホールでカイヤ・サーリアホのオーケストラ作品を聴いてきた。サントリー音楽財団が毎年この時期に開催している現代音楽の催し「サマーフェスティバル」の一環として開催され、オーケストラは東京交響楽団だった。最近、短期的な記憶がま…

広上淳一とNHK交響楽団の「ヒーロー&ヒロイン大集合」を聴いた

もう一月ほど前のことになってしまうが、ミューザ川崎が数年前開催している夏の音楽祭「ミューザサマーフェスタ2016」で、広上淳一指揮するNHK交響楽団がテレビ、映画のヒーローもののテーマ音楽を集めて演奏するというコンサートを聴いてきた(2016年7月30…

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のブルックナー交響曲第8番

ジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団でブルックナーの交響曲第8番を聴いた(7月16日、サントリーホール)。 ジョナサン・ノットは、彼が16年間の長きにわたって務めてきたバンベルク交響楽団の音楽監督としての仕事を、2週間前にこの曲を振って終えてきた…

フランソワ・リリーのリヒャルト・シュトラウス

フランソワ・リリーという、いかにもフランス人らしい名前のオーボエ奏者を生まれて初めて聴いて、あまりの素晴らしさに度肝を抜かれた。 6月17日のNHKホールで行われたN響の定期演奏会でのことで、ここでリリーはリヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲…

『一柳慧の音楽』

タケミツホールで毎年開催されている現代音楽のシリーズ「コンポージアム」が今年取り上げたのは一柳慧。5月25日のオーケストラコンサート『一柳慧の音楽』に行ってきた。 この日、秋山和慶指揮東京都交響楽団が演奏したのは「ビトゥーン・スペース・アンド…