ノット+東響のベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲ニ短調」、ショスタコーヴィチ「交響曲第10番」

東京交響楽団が創立70周年記念として行う欧州ツアーのもう一つの演目を聴いてきた(10月15日、サントリーホール)。前半がイザベル・ファウストの独奏でベートーヴェンのバイオリン協奏曲ニ長調、後半がショスタコーヴィッチの交響曲第10番。このプログラムはザグレブ、ウィーン、ドルトムントの3都市で披露されるものだ。

キュートなベートーヴェンとエキセントリックなショスタコーヴィチの対比が印象的なプログラムだった。トントントントンとティンパニーが堅い音で密やかに拍子を刻み、ベートーヴェンの協奏曲が始まったときには、叩かれた音が思い描いていたのとはまったく異なる音色であったために、えっと思ってしまった。よく見るとティンパニーとトランペットはバロック様式の楽器で、つまりこれは大オーケストラが奏でる古楽風、折衷様式のベートーヴェンなのだった。ソロを務めたファウストさんは、細身の音色のヴァイオリニスト。サントリーホール・ステージ裏のP席から聴くと音量も限られている。そういう演奏家にあわせてのスタイル選択だったのか、最初に思い描くスタイルがあって、それにあったヴァイオリニストを招聘したのかは分からないが、そのあたりのマッチングは理にかなっている。個人的には、この曲はのんびりとした散歩を楽しむような、ゆったりとした演奏が好みだが、ノット氏が振るとさすがにそうはならない。ヴァイオリンが繊細に歌い、オケが歌い返す。さらにそれにヴァイオリニストが鋭敏に反応する、協奏の楽しみが存分に込められた演奏となった。

後半のショスタコーヴィチは、ノットと東響のよさがすべて出たような演奏に思えた。楽章全体、楽章を超える曲全体の流れがスムーズで、テーマ、楽想のつながりに唐突感がない。沈思と激情の反転に納得感がある。これも型どおりの、もっとごつごつとしたロシア風10番とは違う演奏。そういうものにこだわりがある人には違和感があるかもしれないが、今回持っていく先はザグレブとウィーン、ドルトムントである。これは個性あらたかで、当日の出来がよければ、あちらでも受けること必定といってよいのではないかと思った。

この日の東響は思いのほか小さなミスが目立ったが、音楽の楽しみを邪魔するものではなかったのは、聴いているこちら側にオーケストラに対する信頼があり、そこをチェックするつもりがさらさらないからだ。ベートーヴェンも、ショスタコーヴィチも、印象的なソロがたくさんある曲だが、とくに木管がきれいだった。さっき数えてみたら、2年前のマーラー交響曲第9番を聴いてから、このコンビを聴くのは11回目だったが、最初の頃に比べると指揮者とオーケストラの一体感、出てくる音楽の流れがますますこなれてきている。今回のツアーでまとまった時間を限られたプログラムで過ごすと、さらによい効果が生じるのではないかと期待してしまう。今回ブロツワフロッテルダムで演奏されるブラームスが、最終的にどのような仕上がりを見せるかが、まずは気になるところだ。聴けないのが残念だが。