N響の達成

久しぶりのエントリーです。

2月の下旬にN響が欧州主要都市をまわって演奏会を催してきた。昨年末にこのブログに書いたように、今のN響ならばそれなりの評価を得るとは思ってはいたが、今日、録画していたベルリンでのコンサートの様子をやっと視聴し、これは期待していた以上に素晴らしいと納得させられてしまった。
そこで今頃になってグーグルで検索をしてみたのだが、こちらのロンドンはロイヤル・アルバート・ホールでのコンサート評などは、ほぼ絶賛の域に達しているではないか。慶賀の至りというべきである。日本のオーケストラが欧州の批評家にここまでの言葉をもらえたためしはなかったはずだから、日本人のリスナーとしてはやはり、とてもとてもうれしい。

■NHK Symphony Orchestra, Tokyo, Järvi, RFH: Hi-Definition Mahler with plenty of fire in its belly(the artsdesk.com 2017年3月7日)


なんと言っても、この評のリード文は極めつけだ。

Berlin and Vienna Philharmonics; Royal Concertgebouw Amsterdam; NHKSO Tokyo. Would you have thought of putting the Japanese orchestra in the same league as the top Europeans? I certainly wouldn't, at least not until last night. While there isn't the same blended warmth, the sound is never clinical or cold; and the revelation is an incisiveness unlike any other, no doubt encouraged by Chief Conductor Paavo Järvi's digging deep in the amazing march-mania at the heart of the finale in Mahler's Sixth Symphony.


ベルリン・フィルウィーン・フィル、コンセルトヘボウ、NHK交響楽団。あなたは、この日本のオーケストラを欧州トップクラスのオーケストラと同じ仲間に数えたことがあるだろうか。私はそんなことを考えたこともなかった。少なくとも昨晩までは。溶け合った温かみという点では同じ域に達しているとは言えないが、その音は決して無機的ではなく、冷たくもない。そして今回初めて体験できたのは、マーラー交響曲第6番の終楽章核心部の素晴らしいマーチの熱狂、そこに深く分け入った首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィによってけしかけられた、他のどのオーケストラにもない切れ味である。

どう読んでも、これって絶賛でしょう。この評者であるデイヴィッド・ナイスさんが「blended warmth」と呼ぶ、欧州オーケストラの深み、温かみ、音の余裕はないとは言われてしまった(実際そうだと思う)が、しかし、だからと言って、これまで外国でしこたま言われてきたような、音楽的とは言えない機械的な演奏とは一線を画する、日本クォリティの切れ味(incisiveness)がそこにあると、欧州の音楽都市ロンドンの批評家からN響の演奏は引き出したのだ。

ついにここまで来たかという感慨がある。自分が生きている間にそういう言葉を聞けるとは思ってもみなかったレベルの達成をN響はもたらしてくれた。パーヴォ・ヤルヴィの演奏は、疑いなく「切れ味」を持ち味としており、この指揮者とN響のコンビネーションが深みや温かみがなくても「切れ味」で勝負できる演目で戦いを挑んだという点では、今回の演奏旅行は戦略的に正しかったということでもあるだろう。
N響の音楽家の皆さんに、市中の一音楽ファンから盛大なブラヴォーを送りたい。