もう一つロンドンでのN響評からご紹介

昨日に続いてNHK交響楽団の欧州公演評を追ってみた。今日紹介するのは、昨日のエントリーで取り上げたのと同じロンドン公演を、イギリスのクオリティ紙であるザ・ガーディアンが紹介したもの。


■NHK Symphony Orchestra/Järvi review – an ensemble on bristlingly good form(theguardian 2017年3月8日)


これも、「the artdisk.com」の評と同じく、全般的に非常に好意的な内容である。見出しには「an ensemble on bristlingly good form」とあり、つまり、とてつもなく元気のよいアンサンブルだったというのがガーディアン紙の要約だが、記事を読むと元気のよい“だけ”と言いたいのでは決してない。昔の日本のオケに対する評価なら、「元気はある。だけど」となるわけだが、本当に闊達な演奏だったと批評を書いたエリカ・ジールさんは言いたいようなのだ。

一文だけ引かせていただく。

冒険的な演奏だった。その演奏は会場の明るい音響にもほとんど譲歩をすることはかった。しかし、強奏になると、演奏はしばしばぞくぞくとさせるものとなった。とてつもなく規律があり、活気があって、目指すところがはっきりとしている。そしてまた表情が豊かなのである。


最後のフレーズである「表情豊か(expressive)」という部分に、日本のオケとして、これまで到達できなかったラインをやすやすと超えていった今のN響の実力が示されている。規律はあるけれど、音楽がないといった悪口を、ついに日本人が長年培ってきたやり方で突破していったのだ。これについては讃嘆しすぎることはない。

昨日紹介した評も、ガーディアンのそれも、ほとんど言わんとしているところは同じ方向を向いている。ガーディアンは、さすがにベルリン・フィルウィーン・フィルといい勝負だというところまでは言っていないが、一流のオケを聴き慣れたロンドンの批評子が、日本の特殊性みたいなこと抜きに演奏を評価している点がわくわくものである。
ガーディアンの採点は5段階評価の4点で、3点はぼちぼち、5点はいうことなしという同紙の評価の中で4点は、最高とまでは言わないが、十分に納得できるレベルということだと思う。記事マイナスの部分で指摘されているのは、あまりにドライブをかけすぎている、やりすぎていると思われる部分がある点で、終楽章についてもクライマックスを前に作りすぎてしまっているといったことが書いてあるので、これは明らかにオーケストラの問題ではなく、指揮者の解釈に起因する不満点である。

ところで、この評についている読者のコメント欄では、その日の聴衆の一人だった「andrewboarder」さんが面白いレポートをしてくれている。いわく、

N響はすごいオーケストラだ。

いくつか気がついたことを書いておくと、

・お客さんのおよそ半分は日本人だった(少なくとも自分の周りはそう)
・咳払いのレベルは事実上ゼロ
・演奏が終わっておよそ30秒ほど、指揮者が腕を下すまで拍手が起きなかった。


どうやら、この日のロイヤル・アルバート・ホールは、東京のサントリーホールがロンドンに移動したような雰囲気だったらしい。