広上淳一とNHK交響楽団の「ヒーロー&ヒロイン大集合」を聴いた

もう一月ほど前のことになってしまうが、ミューザ川崎が数年前開催している夏の音楽祭「ミューザサマーフェスタ2016」で、広上淳一指揮するNHK交響楽団がテレビ、映画のヒーローもののテーマ音楽を集めて演奏するというコンサートを聴いてきた(2016年7月30日)。これが文句なしに素晴らしかった。

曲目は、ジョン・ウィリアムスのスーパーマンのテーマソング、伊福部明の「SFファンタジー第1番」、バリー・グレイの「サンダーバード」、服部隆之の「真田丸」のテーマ、ジブリの「千と千尋の神隠し」から「あの夏へ」と「魔女の宅急便」の「海の見える街」、そして「ウルトラセブン」からテーマと「ウルトラ警備隊の歌」。おまけに「カルメン幻想曲」と「皇帝円舞曲」。

マチュアを含めたあちこちのオーケストラが、普段コンサートに行かない聴衆を相手にやりそうな、「夏休み特別企画」的なプログラムだが、それを、それなりの指揮者とNHK交響楽団がやるとこうなるのか!という質の高さで、期待をはるかに超えるすばらしい2時間だった。

このプログラムを楽しめる層には残念ながら世代的に限定されてしまう。若年世代に気を利かして久石譲ジブリ音楽を取り入れてはいるけれど、結局、「サンダーバード」と「ウルトラセブン」を喜ぶ特定の年齢層が、冥土の土産に聴いてよかったと自分自身を相手にしみじみと反芻する、という類の内容なので、その辺りの曲に興味がない方にとっては、「なにを喜んでんだか」ということにはなるのだが、ノスタルジーほど厄介な感情はない。

そのうえで。ブラームスマーラーN響以上の演奏が存在するだろうが、しかし、こと「ウルトラセブン」に関する限り、これ以上の演奏はありえない。「サンダーバード」だって、おそらくそう。ベルリンフィルシカゴ交響楽団が「ウルトラセブン」や「サンダーバード」を弾いて、私たちがそれらを生で耳にすることはありえない。そういう意味で、これ以上のない極上の「ウルトラセブン」や「サンダーバード」を私は耳にしたことになる。

それに、当日のおしゃべりで明らかなことに、指揮をした広上さんと、当日のコンサートマスターを務めた篠崎史紀さんがこれらの映像作品を楽しんだ世代であり、音楽にも強い思い入れを持っている。そうじゃなくちゃ、何を真面目に「サンダーバード」、何を間違えて「ウルトラセブン」と、首をかしげることになる演目なのだが、ステージ上のツートップのやる気と、会場を埋めた50代、60代の聴衆の静かな熱気とは明らかにホールの空間上で感応し合っていたのである。付き合わされた若い団員の皆さんはご苦労様でしたとしか言いようがないが、ありがたや、ありがたや。「ウルトラセブン」を死ぬまで生で聴くことができるとは思わなんだ。