読書

村上春樹の新しい本

木曜日、金曜日と書店を6店舗ほど見て歩きましたが、どこも村上春樹の新作だらけで、明るい黄色と緑の表紙に彩られた二巻本の山を見ながら、いろいろと俗っぽい商売のことを考えました。どの書店でも、「これでもか!」といいたげに、うずたかく積まれた本の…

下位の知性とやる気が組織を作る?

二日ほど風邪でへばっていました。藤井直敬さんの『つながる脳』の話をもう一度だけ。 昨日少し紹介したサルを使った実験にまつわる感想の続きです。二頭のニホンザルの間に明確な順位があって、順位が低いサルが絶対服従の姿勢をとることは、この本を読む以…

我慢が社会をつくる

昨日話題にした『つながる脳』に関連して、もう少しだけおしゃべりします。 私たち一般の読者が脳科学者の啓蒙書を読むとき、自分自身の意識がどのように成り立っているのかというテーマを発見して知的にそそのかされます。それが脳科学に対する私たちの平均…

無駄遣い

「またくだらないことにお金を使って」と言い放つ家人の語気と視線に耐えながら、当の対象物が新聞紙上で紹介されたその週末に茅ヶ崎の開高健記念館に自転車で出かけて無駄遣いをしてきた。買ったものはこれ。 ■『夏の闇』自筆原稿を完全再現!最高傑作が作…

ブログは日本語を滅ぼす

水村美苗著『日本語が亡びるとき』を読んで、真っ先に意識が向かったのは表題のことだ。インターネットの時代となり、英語が普遍語としての影響力をますます増しているのは、同書で水村さんが指摘するとおりだと思う。しかし、インターネット時代における審…

水村美苗著『本格小説』、あるいは昨日の『日本語が亡びるとき』批判を批判的に眺める

昨日のエントリーでは、『日本語が亡びるとき』に関し、著者の語り口のある部分、または思想に対して批判を書いた。水村さんがもっとも意図したであろう、近代日本文学の(再)評価と日本語の豊かな将来とを理論的に連結したいという試みについて僕が評価し…

水村美苗著『日本語が亡びるとき』

水村美苗著『日本語が亡びるとき』を読んだ。これだけネット上で話題になっている本だし、そこそこの読後感は期待していたが、この読書は“とんでも”な内容を含めていろいろな意味で面白かった。著者の偏見に寄り添うように語るならば、僕には「小説家が書く…

「シュンポシオン横浜」で感じたこと

これはすでに一度ブログに書いたことですが、「オフ会」という言葉には、ネット上の集まりが主であり、リアルはおまけ、むしろ特別な場というニュアンスがあると私には感じられます。そもそもの語義、語源からして、あるいはものの順序からして、サイバース…

『失われた場を探して』補記

昨日紹介した『失われた場を探して―ロストジェネレーションの社会学』について、もう少しだけ補足をしておきたいと思いました。 この社会学者が書いた一般書、あるいは一般人にも読みやすく書かれた研究書を一読してよい読書をしたときの満足感を得た私でし…

『失われた場を探して』

先日、『アーキテクチャの生態系』を紹介したばかりですが、再び私の職場から世に出た書籍をご紹介させて頂きます。メアリー・C・ブリントン著『失われた場を探して―ロストジェネレーションの社会学』がそれです。『アーキテクチャの生態系』について、この…

『アーキテクチャの生態系』

今年の初めから出版社に勤め始め、最初は企業相手の商売をする部署にいたのですが、夏に一般書籍の部門に移りました。生まれて初めて仕事で本に囲まれる生活は、ある意味で天国のようで、しかし忌野清志郎が唄うように「いいことばかりはありゃしない♪」が本…

『倉橋由美子 夢幻の毒草』を見つける

昼休みに書店に入って文芸の棚をみたら、例の『日本語が亡びるとき』が置いてある。おぉ、例の本と手を伸ばそうとしたら、ちょうどその上の棚、水村本の真上に『倉橋由美子 夢幻の毒草』(河出書房新社)という薄い背表紙があるのが目に入り、出しかけた手は…

故郷の水

数日前に小野さんと会ったときの話を書いたときに、うろおぼえで開高健のエッセイを少し引き合いに出した。開高さんがちゃんと覚えていないのだがと断りを入れて書いていた話を、さらに朦朧とした記憶で引用したので、気になって原典に当たってみた。原典と…

ブログの関係はサル的であるという説

高崎山に別れを告げる前にもう少しだけ『サル学の現在』に出てくる伊沢紘生先生の言葉を書き記しておこうと思う。昨日の部分に続いて伊沢さんはこう言う。 サルは本来そんなに競争にはげんで、あくせく生きていこうとしているのではないんですね。できるだけ…

梅田さんの『日と月と刀』評

梅田さんのブログはかかさず目にするようにしているつもりだが、5月12日のこのエントリーは読み飛ばしていたらしい。7月にお会いしたときに、梅田さんが「丸山健二の『日と月と刀』は……」と突然口にしたのでびっくりしたのだが、今頃になってその複線を理解…

大分に台風見物にでかけるぞ

さて、明後日から九州4日の旅。そのハイライトは18日の大分行きである。本当は10月の金城一座の上陸に加われればよかったのだけれど、福岡に用があるついでの旅で、残念ながら1ヶ月早めの訪問になってしまった。あちらでは小野さん(id:sap0220)、比嘉さん(id…

丸山健二と茂木健一郎

「茂木健一郎さんも丸山健二が好きなようですね。ブログに会った話を書いてましたよ」とうちの若手編集者に教えてもらった。グーグルで検索したら、たしかにあった。http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2007/09/post_186e.html茂木さんは開高健のこと…

吉本隆明が丸山健二を誉めると

吉本隆明の丸山健二著『水の家族』評に出てくる次の一節は、言ってしまえば、ある時期以降の丸山作品全体にあてはまる普遍的な誉め言葉になっている。 この作品は、そう言ってよければ一編のお伽話、あるいは大人のために書かれた童話だとおもう。すべての童…

真面目に生きないと丸山健二に嘲笑されるぞ

くまさんが、丸山健二の『田舎暮らしに殺されない法』の書評をご紹介なされており、つられて読んだ。どうやら、都会人の甘い感傷、脳天気な憧れを一括する典型的丸山エッセイらしい。このエントリーに紹介されている丸山の一文をちらとでもご覧下さい。その…

変転する心を文字にする業の結晶

丸山健二に興味がある方など、このブログをお読みいただいている方の10人に0.5人もいないだろうことは、☆の付き具合や日ごとのページビューを見ていると実に明らかだが、今日もその話題を。丸山健二の小説の登場人物は、ほとんど例外なく、浜の真砂のように…

堂々と作り話を語る

人生は一筋縄ではいかない。思い通りに行かない。人の意思など社会の意思の中では波間に翻弄される小舟のようなものだ。そうした現実を認識しつつ、その現実に挑みかかる者の周囲にドラマは誕生する。丸山健二の小説は、そうしたマッチョな世界観と、その裏…

久しぶりの丸山健二

丸山健二の『日と月と刀』を読み終わった。丸山健二の著作に身銭を切るのはいつぶりだろうと、本箱を覗き、たぶんもっとも最近買ったエッセイ集『されど狐にあらず』の奥付を見たら1991年とあって、これには驚いた。まるで竜宮城の浦島太郎ではないか。たぶ…

紋切り型

3ヶ月間、慣れない営業込みで取り組んでいた面倒な仕事が山を越し、あと一週間すればハッピーエンドと相成る予定である。しかるが故に心は清澄の領域にたゆたい、久しぶりにのーんびり。延び延びになっていた短い夏休みもやっと取れる。先週、数ヶ月ぶりに会…

ガッツポーズは青春ドラマであり、敗戦の涙は青春小説であるという説

「ガッツポーズして咆哮できる人生って、スポーツしかないのだなとあらためて思いました」とこの前のエントリーのコメント欄でせるげいさん(id:sergejO)が書いている。そんな普通誰も考えないようなことを言葉にするせるげえさんの面白さに脱帽しつつ、こん…

『日と月と刀』、読んでみっか

一昨日、梅田望夫さんとお話をしたときのことだ。 話の途中で梅田さんが「最近読んだ丸山健二の『日と月と刀』はすごいですよ」と藪から棒におっしゃった。その直前にはおそらく全然別の話をしていたはずなので、急なタイミングで出てきた丸山健二の名前に内…

冷泉彰彦著『「関係の空気」「場の空気」』

発刊当時話題になっていた一冊であることは知っていたが、人に勧められて読みとても面白かった。 著者の冷泉さんはアメリカの大学で日本語を教える教育者で、村上龍主宰のメルマガ『JMM』の常連執筆者でもある。本書は日本語の専門家である冷泉さんが考える…

聖地再訪

昨日の土曜日、湘南の海を愛でながら茅ヶ崎の開高健記念館までサイクリングをしてきた。3月に訪れたばかりだが、ふと開高先生に触れたくなって思い立った瞬間に足がそちらに向いた。自転車で1時間で到達できる距離にこういう場所があるのは、ファンとしては…

『私塾のすすめ』ってどこが面白いんですか?

先月だかの金城さん(id:simpleA)の「わいわい」の席で、誰からだったか「『私塾のすすめ』ってどこが面白いんですか?」と尋ねられた。そのときにはすでにエビスビール2パイントを飲み、酔っぱらい方面に移行途中だったので、「うーん」とかなんとか言ったき…

場所を選ぶことは重要だ

ふたたび井伏鱒二の『山椒魚』の話ですけれど、岩屋の中に閉じこめられた山椒魚は次第に「よくない性質を帯びてくるらしかった」と書かれています。おそらく、インテリの山椒魚でなくても、自我を備えた生き物はほぼ例外なくそうで、「ここは自分のいる場所…

桜の樹の下には

井伏鱒二の『山椒魚』同様、『桜の樹の下には』は文学好きなら誰もが知っている。 桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられ…