キッザニア社長の話を聞いた

つい先日、このブログで話題にしたエデュテインメント施設「キッザニア」の社長さん、住谷栄之資氏の話を仕事の関係で聞くことができた。マスコミで大きな話題のキッザニアを日本に輸入した人はどんな人なのだろうという好奇心を十分に満たしてくれた上で、思いがけなかった考える材料も頂いた格好になった。

住谷さんは60代半ば。デベロッパーの藤田観光で働いた後、まだ若い頃に脱サラ、ケンタッキーフライドチキンなど海外のレストランのフランチャイズ展開をはじめ、その後もカプリチョーザといった独自ブランドの開発などを含めて外食産業の世界で大いなる成功を収めた方である。海外の仕事も多い住谷さんが数年前にメキシコで出会い、そのコンセプトを日本に持ってきたのがキッザニアだ。

資本家や経営者は眼差しのどこかにぎらぎらしたものを宿しているに違いないと思うのだが、ご挨拶をし、お話を聞いた住谷さんは穏やかで、大らかで、さっぱりとした性格の紳士に見えた。一緒にお越し頂いた広報部長さんとのやりとりを端で見ていても、この白髪の紳士から滲み出て見えるのは温かさ、優しさがビジネスの成功とどんな風に関係しているのだろうと思いをめぐらしてみた。そんな無用な詮索をしたくなるような方に見えた。
キッザニアは基本コンセプトをメキシコの先行事業から持ってきているが、顧客対応のソフトな部分はみな日本で独自に考えながら作り込んでいると言う。メキシコの子供たちは施設の中で使えるお金「キッゾ」を使って施設で遊び、お金がなくなったら働き始める。これに対し、日本の子供たちはまず働き、お給料にもらったお金を使わずに貯める(このキッゾは“貯金"もでき、次回また来場したときに使うことができる)傾向が顕著だという。面白い。

これは広報部長さんから教えて頂いたのだが、さらに面白いと思ったのは、子供たちに接する従業員の人たち(“スーパバイザー"と呼ばれる)に「待つこと」を教えているという話だった。学校や幼稚園の先生など子供を教える経験を持っている人が多いスーパバイザーは、子供にまず教えようとしてしまう。当然だろう。ところがキッザニアでは、そうしないようにと指導をしているのだそうだ。子供たちが動き出したり、質問し出すのを待って、子供たちの自主性を引き出すことを重要な方針にしているのである。当初は、見ていた親から「なぜすぐ教えてくれないのだ」と批判も少なくなったというが、子供の自主性を育てることが住谷さんがこの事業で実現したい理念のひとつでもあり、実際にそれによってサービスの豊かさが育っているという。キッザニアの魅力はコンセプトの斬新さにあると同時に、こうした消費者の自主性を引き出す部分、消費者がプレイヤーとなって自分たち自身で場の楽しさを作ることを促進する部分にあるようなのだ。

サービスや場に貢献する者としてのユーザーといえば言わずと知れたWeb2.0の基本コンセプト。それと近い発想を住谷さんとキッザニアがお持ちである点はとても面白いと思った。これは偶然の一致なのだろうか。それとも明確な時代のニーズがそこに存在しているのだろうか。話を聞いているうちにキッザニアのような人工的で限定された商業施設で魂を解き放つ勉強をする子供と親たちをいたずらに皮肉る気持ちは引っ込んでしまった。これがマーケティングの話なのか、それを超えた何かにつながっている話なのかも、これから考えていくテーマだと感じている次第である。

クローズドな会合で得た情報に基づいたエントリーだが、ここまでの内容なら許して頂けるものと考えて書かせて頂いた。