虹ノ松原、ペットショップの犬たち

福岡の休日二日目。半日、唐津に遊びに行ってきた。福岡の隣町なのに今まで降り立ったことがない。ちょっとした旅行気分で出かけたが、今日は戸外を歩くのは少々辛かった。九州北部は1月上旬の寒さになるとは聞いていたし、明日まで曇りが続くのも分っていた。覚悟の上のつもりだったが、実際に海風に吹き付けられる海岸線を写真を撮りながら歩くと途中から凍えそうになった。分厚い雲はほどけそうになく、唐津の海は単調なモノトーンの世界。写真を撮るのも難しい。そこで写真はそこそこで諦め、いつもの歩き癖が出るままに唐津からJR二駅分、虹ノ松原の砂浜、約5キロを歩いてきた。

虹ノ松原は日本三大松原に数えられる景勝の地。ずいぶん前に来たときは夏だったので開放的な美しさだけが印象に残っていたが、冬の砂浜なんて物好きが行くところだということがよく分った。5キロの間にすれ違った人はたったの3人。かもめが数羽。あとは間断なく吹く北風の中をカメラを手に行を行うごとくひらすら歩を進めるのみ。ただ、一瞬、もしかしたら一分にも満たなかったかもしれないが、割れた雲間から辺り一面に日が射したときには、白黒映画がカラーになったような魔術的な鮮やかさだった。一気に気分は高揚し、報われた気がした。

福岡に帰って暖かいうどんの昼食をとり、いま、これを書いているネットカフェに昨日に続いて潜入。
ここにたどり着く直前にペットショップの前を通り過ぎた。歩道の脇に止めた軽トラックからいくつもの檻が運び出され、脇に置かれ、あるいは積み上げられていく。中にはこれから将来の飼い主に見初められるのを待つ何匹もの犬たちが窮屈そうにしている。子犬なのだろうが、かなり図体が大きくなっている連中が多い。狭い折の中で背をかがめておとなしく座っているそのなかの一匹と目が合って、「かわいいなあ」と思わず足を止めたら、まだトラックの中に積まれていた別の一匹が僕の方を見ながらわんわん吠え立て始めた。目を見ると必死の気配である。明らかに「おじさん、ここから出して!」と言っている。その思いはたちまち周囲の犬たちに伝染したのだろう、わんわん、きゃんきゃん、都会の路上は犬たちの悲鳴に似た鳴き声があふれ、街行く人たちが振り返る有様。いたたまれなくなって足を速めたが、鳴き声は悲しげな遠吠えに変わっていつまでもついてきた。