もっとも怖かった山の怪談話

山に登るとテントで山中泊なんてことになり、真っ暗で動物のうごめく気配しかしない場所ですから、怪談話などするのには絶好な訳です。高校生は、そういうの大好きですから、よくやりました。その中で、一番怖かった話をお教えします。そのときは6,7人が一緒でしたが、ぞーっと背筋が寒くなりました。実話を装って話す怪談とはちょっと毛色が違います。こんな話です。


佐藤さんと鈴木さんが二人で夜の山を登っているとする。辺りは月明かりでおぼろげに照らされているが、木々に邪魔されて足下さえおぼつかない。二人のヘッドライトが照らす二つのぼんやりとした空間だけが、揺れながら動き、二人の靴音だけがやけに大きく聞こえる。


そんな瞬間、前を歩いていた佐藤さんが鈴木さんに向かってかすかな薄ら笑いを浮かべながら突然こう言う。


「なぁ、鈴木、お前まだおれが本物の佐藤だと思っているのか」


これはほんとうに怖いです。別に山を歩いていなくても結構。テントの前で焚き火に当たりながら二人だけ、墓場で肝試しをしているときに二人だけ、ほとんど街灯がないような郊外の道で二人だけ。そんな状況でお試しください。


ただし、相手がナイーブな方の場合、友愛関係が壊れる危険性がありますから、ご使用の際にはくれぐれもご注意ください。もちろん、当方一切の責任は負いかねます。