栂池高原-白馬大池-白馬岳-蓮華温泉(1)

北アルプス・白馬岳に夫婦で登ってきた。日頃の垢を落としに本物の垢をしこたま作りに行く旅である。本格的な山登りからはずいぶんと遠ざかっており、アルプスに足を踏み入れるのは、やはり二人で20代半ばに北岳に登って以来になる。テント行も、30歳以降は一度もやったことがない。そんな50歳を過ぎた夫婦が、トレーニングと称して鎌倉の裏山を歩いたり、十数キロの荷物を背負って日暮れた坂道を登り降りしたりと、健気な努力をほんのちょっとだけした結果、なんとか予定のコースを歩いてきた。そして、久しぶりにやってみて思った。

「夏のアルプスは楽しい!」

出来れば、歩ける限り、自分たちのペースでゆっくりと歩き続けたいと思った夏になった。同時に歩く途上で見聞きした事物にも、さまざまな思いを抱かせられたが、その話はまたおいおいと。

【行程】
2010年8月5日(木)〜8月8日(日)
・第1日:新宿→栂池平(栂池ヒュッテ泊)
・第2日:栂池平→白馬大池→白馬岳(白馬頂上宿舎脇キャンプ場泊)
・第3日:白馬岳→白馬大池白馬大池キャンプ場泊)
・第4日:白馬大池蓮華温泉糸魚川経由で帰宅)


【第1日】

白馬駅

横浜の我が家を7時前に出発、新宿午前9時発の高速バスの客になる。車窓から右の車窓に広がる炎天下の山並みを眺め続けること4時間半、バスは白馬駅に到着する。
首都圏の住人は「信州」という言葉を聞けば涼しいと思いがちだが、湿度の違いこそあれ、じりじりと焼け付くような日差しは東京となんら変わりはない。目の前に広がる白馬の残雪を見ながら、30数度の熱気の中、栂池のゴンドラの駅に向かう路線バスを待つ。白馬の駅に来るのは2度目のはずだが、記憶の中に映像のかけらも残っていない。ほんとになんにも覚えていないのだ。女房には「じゃ、どこに行っても行かなくてもおんなじってことだ」ときつい冗談を返されてしまったが、ほんとに僕の記憶に残っている光景はいったいどれだけあるのだろう。




時間がない、金がない若者には代わりにたっぷりと体力があったから、昔は山に来るのは夜行列車と相場が決まっていた。重い荷物を持って、速く、たくさん歩くことが美徳でもあった。もうとてもそんな山登りはできない。中年にさしかかる中で、そうした体力の減退にあらがう意識、体力低下を悔しく思う気持ちを抱える長い期間があったが、つい最近になって、それは当たり前だし、その状態を楽しもうという雰囲気が自分の中に醸成されてきたように思う。一泊余計に泊まって、少し歩く距離を減らせば、これからも山に登れる。そのことを自分に十分に意識させることによって、残りの人生は自分にとって、より有益なものになるはず。ほんに自我とはややこしい。




栂池平へ

路線バスを終点で降り、今日の宿泊地である栂池平へとゴンドラとロープウェイを乗り継いで向かう。写真はその乗り場。




およそ千メートルの高度差を一気に登り切る。ゴンドラに乗り込む頃には、山々にかかっていた雲が嘘のようになくなり、青空の下、風景はおそろしいほどくっきりと浮かび上がってきた。すでに東京では味わえない感覚だ。



小ぶりのゴンドラから70人乗りのロープウェイに乗り換えると、明日登る白馬岳への稜線がはっきりと見渡せる。今日の乗客は3人のみ。ロープウェイに同乗する従業員の方が「こんなに見えるのは珍しいですよ」というほどの絶景が頭上に広がる。



栂池

ロープウェイを降りると、そこは今日の宿、栂池ヒュッテがある栂池平。写真の右に柱のように移っているのが宿泊をした栂池ヒュッテ。目の前に見える山が明日に登る乗鞍岳への道。ここを越えて、10キロ少々先、高度差千メートル余の白馬岳に向かう。



栂池にあるのは栂池ヒュッテ、栂池山荘という二つの山小屋と栂池自然園と名付けられた高山性湿原である。ここはすばらしい。自然園という名前を聞くと、半ば人工的な公園を思い描くが、栂池自然園はさにあらず。高山植物が乱舞する広大な湿原に入場料をとるためのゲートをつくり、木道を整備しましたというのが「園」の実体で、そこは小さな尾瀬といった類の美しい風景と、そこここに独特の気が漂っている。残念ながら、写真にはうまく表現できていないけれど。



僕らが行った際には、ワタスゲチングルマがあちこちで風にふわふわと、夢のなかの光景のように揺れていた。





木道の脇にオニユリが4本。



ここまでなら乗り物を乗り継いで歩くことなくたどり着ける。体力に自信がない方でも訪れることができるだろうと考えると、多くの人に勧めたくなる。そんな場所。僕らは夕暮れ時に入り口を少し歩いただけだけれど、奥まで行けば往復で5キロ以上のハイクになるらしい。とても楽しそう。








夕暮れには積乱雲がオレンジ色に染まっていた。



山々はいつしか雲と闇に包まれてゆく。



というわけで山行の一日目。重くかさばる一眼レフを持ち歩くのをあきらめて、息子のコンパクトデジカメを借りてきたら、花の写真はぶれまくり。なれない道具を使うのは難しい。
続きは、またぼちぼちと書きます。