素晴らしきアメリカ

物事には明るい面と暗い面があり、社会にも同様によい面と悪い面がある。

iPhoneを使い始めたおかげで、いまさら、いまごろ、ではあるけれどiPod機能を活用し始め、おかげでアメリカのニュース番組をpodcastingで見ることができるようになった。
NBCが朝のニュースショー『Today』を広告抜きに編集して30分、CBSNBCから引き抜いた人気キャスター、Katie Couricが司会をする夜のニュースショーをほぼ同じぐらいのまとまった時間半日遅れで見せてくれる。ほぼ10年ぶりに見ると、Katieや『Today』の司会をしているMatt Lauerなど、アメリカで毎日見ていた顔がきちんとそれなりに老けていて、やはり10年はあったのだなと確認し、納得したり、少し寂しくなったり。

そんな風にして久しぶりに見始めたアメリカのニュース番組からは日本のメディアを見ていてもまるで見えないアメリカの気が伝わってくる。日本でも大きな話題になった先日の航空機事故を伝えるニュースでは、155人の乗客を冷静な判断と的確な技術で救ったパイロットに対し、二つの番組ともに讃辞を惜しむことがなかった。それを見ていて、よきアメリカを思った。アメリカのメディアでは、事故に際して人助けをした市中の人びとを「Hero」という言葉で讃えるのが慣習化している。素晴らしい慣習だと思う。今回のUSエアのサレンバーガー機長はまさにHeroの中のHeroなわけで、キャスターが「すべてのアメリカ国民が忘れることができないHeroの名前は……」といった報道を何のてらいもなく、繰り返しするのを聴いていると胸が熱くなる。「みんなで誉め合おう」とブログで書いているのを思い出し、そういうことが自然とできている社会がうらやましくなった。

うらやましいと言えば、昨日の大統領就任式がそうで、政治があのようにして人心をひとつにまとめる機能を持つことは、日本では未来永劫あり得ないだろうと思いつつ、オバマの演説を、それに聴き入る群衆の姿を、就任式の興奮を伝えるメディアのありようを、小さなiPhoneの画面に引き込まれるようにして見た。200万人を超える人々がワシントンのモールとその周囲を埋め、あまりの人の数にチケットを持っていても就任式の場に入れない人もいるという中で、目立った事件や事故はまったく起きない。熱狂と厳粛さが混交し、画面を見る限り、不思議なほど理性的な群衆に起こっていることの大きさが示されているように感じられた。それとともにアメリカの素晴らしさを思った。他人をしっかりと認め合おうという理念が現実の姿と化し、きちんとした理念として生き、アメリカ合衆国という名前を与えられている土地について、自分の体験を振り返り、思いをめぐらした。

『Today』ショーには大統領選挙の終盤で反対党派である民主党オバマ支持を打ち出し、オバマ当選に駄目を押した共和党の重鎮、コリン・パウエルが出演して、圧倒的な存在感を示していた。オバマへの期待を尋ねられ、能力の高さ、人間としての資質、そして黒人であることと語るパウエルの、いたずらにムードを煽るのではない理知的なコメントは、面白おかしくはないが、アメリカの良心、政治の質の高さが姿かたちになっているように思われた。こういう政治家の姿に久しぶりに触れたなと思った。

あの国がいいことばかりじゃないのはよく分かってる。しかし、いつの時代にも自分に足らざる何かを他者に見つけ引っ張り出してくる意思、よい面に学ぶ率直な心構えは、常に求められている。