オバマ勝利宣言をニューヨーク・タイムズで読む

人並みにではあるが、アメリカ大統領選挙の行方には興味があり、注目してきた。“ブラッドリー効果”云々というネガティブ要因も取りざたはされてきたが、オバマが勝つだろうという予測は「高気圧がやってくるので明日は晴れるでしょう」と気象予報士がにこやかに語るテレビの天気予報ほどには信じてよいように思われた。だから、そのことよりも、オバマの当選をアメリカがどのように語るのかに興味がある。一地球市民としてそうだし、かつて短い期間だけれどアメリカにお世話になった者としてそうだ。しばらくはニューヨーク・タイムズの政治欄をウェブを通じて読む日々が続くことになりそうだ。

当選が確定した後、オバマがシカゴのグラント・パークで行った勝利演説。彼はこう語った。

“If there is anyone out there who still doubts that America is a place where all things are possible, who still wonders if the dream of our founders is alive in our time, who still questions the power of our democracy, tonight is your answer,”
(New York Timesネット版・11月5日のAdam Nagourney記者記事による)

アメリカの為政者が口にする、こうした愛国主義的な言辞がいやだと感じる方も多くいらっしゃるかもしれない。アメリカやアメリカ人に対峙した結果として嫌な思いをしたことがある人はおそらく日本のみならず世界の隅々にいて、「アメリカは最高だ」という類の言葉をアメリカ人が言うたびにかちんと来たり、苦々しく思ったりしていることだろう。それは僕なりに分かるし、実際にアメリカ人の悪口を雑談の中でしたりしているのだが、ただ、オバマがここで語っている言葉を読むと、もっと素朴で単純なレベルで感動する。

同じ記事の中では、敗れたマケインが、次のような言葉でオバマの勝利を祝福していることが記されている。

“This is a historic election, and I recognize the significance it has for African-Americans and for the special pride that must be theirs tonight,”

大統領候補から野球のコーチにいたるまで、自身が敗れた当の相手を言祝ぐ指導者の公的メッセージ、そうしたコミュニケーションの取り方は明らかにアメリカの中に内蔵されている制度であり、我が国にはないものだ。斜に構え、皮肉なコメントを匿名ブログに書くのが日本という要約は乱暴かもしれないが、勝負に挑む気迫と、勝負を当たり前のものとする社会が持つ安全装置としての、こうしたメッセージの交換を目にすると、毎度のことながら率直に「まいったなあ」と思う。また、中年になるまでアメリカにはまったく興味がなかった人間としては、アメリカの良さに対して謙虚であることの重要性について、あらためて思いをいたさざるを得ない。