齋藤孝/梅田望夫著『私塾のすすめ』

まだ二章を読み終わったところなのだけれど、齋藤孝/梅田望夫著『私塾のすすめ』に感心しきりで読み進めている。梅田さんの著作の中で、もっとも力が抜けていると僕には感じられ、力が抜けているが故にメッセージが自然体でくっきりとしている。一連の著作の最後を飾るのにふさわしい一冊になったのではないか。

数々の著作をものした経験の力は余裕となって発言を支えてる様子が明らかだし、さらに対談相手の齋藤さんの存在がそんな梅田さんの魅力を存分に引き出している。お二人のやりとりは、本という枠組みを超えて、人と人との対話の素晴らしさ、前向きな語り合いの豊かな価値を人々に向かって楽しげに訴えているかのように見える。相手のメッセージに寄り添い、その本質をつかまえながら論を深めていく。だからといって互いに遠慮するのではなく、それぞれの主張をしっかりと述べ合い、考え方の違いを際だたせながら、互いの主張の勘所を柔らかな雰囲気の中にくっきりと印象づけていくのである。本書はそんな点からして大いに教育的だ。

最近、ベテランの出版マンに聞いたのだけれど、実は対談本、インタビュー本の類は水準を確保し、商業的に成功させるのが難しいのだという。校正が過ぎて、対論の味が減ってしまった感がある平野啓一郎さんとの『ウェブ人間論』、前のめりに語り合いながら、どこか互いへの遠慮を感じてしまう茂木健一郎さんとの『フューチャリスト宣言』を思い出すと、なるほどと思わざるを得ない。それらに比べて本書の対談としての出来は一頭ぬきんでている。

個々のトピックについても個人的に印象的に感じた部分があるのだが、このタイミングでそれらに対する感想を書くのはネタをばらすことにもなってしまうので、また別の機会に譲ろうと思う。