梅田さんが書いたこと、書かなかったこと

11月16日(金)に書いたエントリーの続き、「ここで書かれていることと、梅田さんが彼のブログや、本書『ウェブ時代をゆく』の中で繰り返している「大きな企業に勤めるだけが人生じゃないよ。みんな、もっと多様な生き方を視野に入れたらいいのに」という趣旨の主張との間には、かなり距離がないだろうか。」と書いた続きである。「距離がないだろうか」という表現が示したいのは、それらが矛盾しているという意味ではなくて、本来それら二つの記述は独立しているはずだという意味である。ウェブの時代になって個人がパワーアップし「内面的な報酬」を獲得できるチャンスが増えることと、職業選択の話とがだ。


そうだとすれば、梅田さんのテキストから3つの生き方が導き出されると考えてよいはずだ。


A.「内面的な報酬」を求めてウェブでパワーアップし、そのパワーを職業生活の外で発揮する。
B.「内面的な報酬」を求めてウェブでパワーアップし、そのパワーを大組織の中で発揮する。
C.「内面的な報酬」を求めてウェブでパワーアップし、そのパワーを大組織の外で発揮する。


梅田さんが『ウェブ時代をゆく』のなかで語っている中心はCの、「内面的な報酬」を貨幣経済の中で報酬に転換する類の話だが、これは本来「内面的な報酬」論の中では一番最後に出てくるケースではないかと思われる。Aは、例えばこのブログも典型的にそうだが、職業とは別個の空間で「内面的な報酬」を求めて活動するケース。ウェブの恩恵としてはもっとも普遍的・一般的であることは梅田さんの記述に在るとおり。

Bはこれに対して、ちょっと微妙。梅田さんは古い組織は個が必ずしも生きないから、Cの道もあるよ、と同書の中で言う。あらためて、梅田さんのロジックを追ってみよう。『ウェブ時代をゆく』の中では、こんな展開になっていることが分かる。


1.Webに代表するIT技術は個人をempowerする。
2.同時に、IT技術の普及によって変化の時代が訪れ、新しい職業が生まれる可能性が高まっている。
3.そこは個の力がダイレクトに生きる純粋な競争の世界である。
4.今はそれがオープンソースコミュニティなど一部の先端技術者の世界にしかないが、これからはその間口が一般の職業へと広がっていく可能性がある。
5.ところが日本は大組織を中心としたピラミッド社会である。そこでは得てして古い価値観が滞留し、個人の新しい価値観が尊重されない。
6.(だから)既存の組織で息苦しい思いをしている人たちにはウェブに代表されるIT技術の発展はチャンスである。


大きな流れとしてはそのとおりだとしても、一方で必ずしもそうとは言い切れないのではないかという声が出ても何ら不思議ではない。4について、方向はそのとおりだとしても、それがどの程度の速さで進行するかが職業選択という議論に移る際には問題になる。また、5についてどう感じるかは人それぞれという部分も大きいはずで、梅田さんの論に反論があるとすれば、この辺りからだろうと思う。

僕自身がどう感じるかについて語ると、梅田さんの思想がメシアの言葉のように通じる層はあると思う。そう思うのは、20代の自分を想像するとぴたりと当てはまるから。その人たちにとって『ウェブ時代をゆく』が予言の書のように感じられたとしても何ら不思議ではない(池田信夫さんがカルトみたいで気持ち悪いと書いているのは、それを外から見つめる人の視線としては、当然ありだと思う)。ばっちりヒットするのは、そこそこ以上の力がありながら、大組織の中で屈託している人たち、大組織の中と言わずとも、この国や自身の未来が見えないことにいらだちを感じている人たちだろう。

大組織の中で生きていく人たちに対しても梅田さんは本書の中でちゃんとメッセージを残しているが、明らかに「そちらは自分の管轄外だけど」とでもいいたげな程度の記述に終わっている。しかし、梅田さんのロジックに立ち返って考えてみれば、個人を強くするウェブやITの技術は、組織の仕事の中でも個人の能力を高め、彼・彼女の可能性を高める道具となりえるはずで、IT技術の受容の差が実際に個人の力の差として表れている部分が現在でも大いにあるのではないかと思う。これはいま大組織に中にいる僕個人の感想。また、米国に比べて組織が長年にわたって生き残る風土がある日本の場合、既存の組織を如何に活性化していくかは、とても重要な問題だ。梅田さんの檄は、だから梅田さんが大して語っていないとしても、大組織・古い組織の中にいる人たちにとって意味がある。

こう考えてみると、梅田さんの大組織に対する見方や、組織の外で生きることを勧める態度には、梅田さん個人の思いがかなりの程度で反映されていることにあらためて気がつく。小飼弾さんがブログで梅田さんが裸になったと書いているが、僕はそうは思わなかった。丁寧に、役に立つ梅田さんの自分史が描かれていて、「ロールモデル思考法」を説得力のあるものにしているが、梅田さんってどうしてそういう風に考えるのかな、ということに思いをいたすと、とくに大組織に対する梅田さんの思い、感じ方については書かれていない部分があるなという感じは強くした。