NHKの『フルスイング』が面白い

NHKで土曜日夜に放映されている土曜ドラマ『フルスイング』がとても面白い。
作品は高畠導宏さんという実在の人物をモデルにしている。プロ野球7球団で打撃コーチを務め名コーチとしてならした後に、58歳の年齢で福岡の高校に教師として赴任し、膵臓ガンで亡くなるまで教育の現場に熱意を燃やした方。その教師生活をドラマ仕立てにしたものだが、偶然に初回の途中から見始めてやめられなくなってしまった。

番組は高畠さんをモデルにした高林先生を主人公かつ毎回の狂言回しに一話完結・全6回の予定で放映されている。高林さんという主人公が、暖かく、大きな人物として描かれていて気持ちがよい。常に前向きで、人を信頼し、子供らに夢を持てと語り、落ち込んでいる教師や生徒にに向かって「あなたなら大丈夫じゃ!」と笑顔で励ます人物である。

ドラマは毎回異なる教師と生徒の関係にスポットを当て、人生と人間関係に悩む彼らが困難の淵から精神的に立ち直り、明日を目指すさまを描き出す。小一時間のドラマだからご都合主義的な展開がないわけではないが、高林先生や登場人物が発する台詞に、我々が生きる上での真実を言い当てていると思わせるものがあって、毎回観るたびに他愛なく心を動かされてしまう。

昨日の第4回はこんなストーリーだった。
人がよいが、気の弱い英語教師の太田先生が精神的なプレッシャーに耐えきれず学校を休んでしまう。調べると、教室の中であからさまな教師いじめが存在していた。太田先生の授業中、クラスの子供たちがニューヨーク生まれの帰国子女・水沢さんに質問をけしかける。バイリンガルの水沢さんの英語による質問が聞き取れずに立ちつくす太田先生。それを笑いものにするクラスの子供たち。繰り返されるそんなシーンに太田先生は耐えられなかったのだ。

一方、先生いじめに荷担した帰国子女の水沢さんも心を病んでいた。帰国以来、日本の集団主義になじめず、心を開くことができない水沢さんは、自らの意思とは異なる太田先生いじめの先頭に立たされ、自己主張をできない日本の日常に絶望しつつあった……。

ドラマはこの二人が心を開き合い、互いを許し合うハッピーエンドで終わる。水沢さんを演じた女の子の演技がすばらしかった。視聴者には日本語字幕が用意されていたが、二人が語り合う英語の台詞が感動的だった。そして、身につまされた。

駐在を終えて日本に帰国する際に、一番心配していたのが子供の日本社会への再適応の問題だった。長男は小学校2年生まで日本を体験しているので、帰ってくれば再会する友達もいたが、下の二人は日本で学校に行った経験がない。親としては神経質にならざるをえなかった。

小学校の4年生だった長女の場合、担任の先生の対応が素晴らしく、大いに助けていただいた。最初の自己紹介も英語でやってよいと言われ、本人は大いに安心したようだし、他のお子さんとは異なる社会的バックグランドを背負って帰ってきた長女をよい意味で特別扱いしてくれた先生には感謝の念でいっぱいである。大きくなったいま、ときどき雑談の中で彼女が漏らす言葉を聞いていると、本人にとっては、そんなに簡単な話ではなかったようだが、ともかくも、3人の子供ともに日本嫌いの水沢さんのような一時期がなかったことは幸いだった。

出る杭を叩く日本人の差別意識アメリカとは比べものにならないほど大きいと思う。


『フルスイング』(NHK)