“あるところ"へとむかって

朝2時台に出勤した一昨日、Emmausさんに教えていただいたアンジェラ・ヒューイットクープランを弾いたディスクを早速買い求めた。人に勧められたものにすぐに飛びつくことはあまりしない方なのだけれど、Emmausさんの紹介文があまりに見事で心の琴線を強く揺さぶるものだったことにそそのかされてしまった。


■人も音楽も<あるところに>向かう(『Emmaus'』2007年12月27日)


ヒューイットは以前ためしに買ってみたバッハの「インヴェンションとシンフォニア」がまったくもって趣味に合致しない演奏だったことが理由で、それ以来一度も聴いたことがないピアニストなのだが、数日前に話題にしたペンギンのCDガイドでも存命のバッハの演奏家としてはもっとも頻繁に取り上げられるスターだし、2006年の来日公演を行きそびれたこともあって常日頃なんとなく気になる名前ではあった。それに演奏家を一つのディスクだけで判断するのはフェアではないことは、よく知っている。僕が気に入らなかったCDについてはペンギンでも取り上げられておらず、彼女の評価が高い演奏のCDは一度も聴いたことがない。さらにクープランもはたまたプーランクも、何かのついででしか耳にしたことがない。一度ある程度まとまって聴いてみる必要がある作曲家だと気にかかっていたのではある。

よかった。バッハ以前の西洋音楽には、まだ複雑さとは無縁の場所で自然や大地と近い関係を持っていた人の自然なありようを思い起こすような部分がある。そして「人も音楽も<あるところに>向かう」のである。

途中で聴き慣れたメロディーが現れたときには、はっと心にさざ波が立って、まるで外国の街角で昔なじみの友達にあったような気がした。フランス・ブリュッヘンのリコーダーで有名になった『愛の鶯』。クラブサン曲集に出てくる曲とはまったく知らなかった。

ヒューイットの『愛の鶯』の微妙で繊細なアーティキュレーションと品の良い装飾を聴きながら、この曲をリコーダーで吹いていた中学生の頃にちょっとだけ思いをはせた。中学3年生の時に「第1回横浜市リコーダーコンクール」なるイベントが開催され、僕は2等賞をもらった。とても嬉しかったっけ。今に至るまで賞状をもらった機会はそれが最初で最後。そんな体験を実に久しぶりに思い起こすことになるとは夢にも思わなかった。しばらく聴き続けるディスクになりそうだ。