モンポウ

ドビュッシーがいなければ、他の様々な作曲家のそれとともにモンポウの音楽もなかったのだなと思う。昨日は、そんなことをふと考えてドビュッシーの名前を出したが、書きたかったのは、フェデリコ・モンポウのこと。その昨日のコメント欄でid:Emmausさんがモンポウの名前を出してきたので、それを読んだときにはパソコンの前で驚いたのだけれど、つまり導入役のドビュッシーは十分に役目を果たしてくれたということか。

スペインの作曲家・モンポウについては、以前id:mmpoloさんも触れていたことがある。けっこう隠れたファンが多いのかもしれない。若い頃初めて聴いたときにはなんという感興もなく(おそらく、マーラーだとか、英雄的、誇大妄想的で自己顕示性の強い楽曲ばかり聴いていた頃だ)、僕にとっては長い期間、単に名前を知っている作曲家、一度は聴いたことがあるだけの作曲家の一人に過ぎなかった。ところが、最近ときどき聴いて心がほぐれる体験をしている。そのことを書こうと思った。

モンポウには歌曲や管弦楽曲もあるらしいが、僕は彼の代名詞である短いピアノ曲しか知らない。好きなのは『歌と踊り』。どれも2,3分といった短い楽曲からなる連作で、分かりやすい、音の限られた民謡風メロディを持つ作品は、ドビュッシーやサティなどに連なる音楽なのに、聴いたとたんにフランスの有名作曲家たちとは異なるあきらかな個性を示している。かわいらしい、テンポ感のはっきりとした主題と最低限の展開。ところが、そこに一癖ある和声が絡み、見える風景にはありそうで他で見ることができない彩色がなされる。それはときにけだるく、ときに内面にやわらかく沈潜し、ときに不協和音や対旋律のずれが暴力的な鋭さを楽曲に加える。単純さと複雑さ、土着的で自然な要素と、近代的で人工的な要素が混じり合わずに同居する音楽。作曲家ならではの独自の感性と戦略性、彼をとりまく環境や伝統の存在とを同時に思い起こさせる音楽。

グラモフォンもペンギンも、あちらの有名CDガイドは、Stephen Houghのディスクに最大限の評価を与えている。とくにペンギンは、同ガイドがとくに推薦するCDにのみ贈る「ロゼッタ」付きである。

個人的には、この演奏はモンポウの音楽の表出としては品がよすぎて、むしろそこに喰い足りないものがある。高級フランス料理風の仕上げだが、モンポウは、むしろ、お好み焼きを食うような演奏、うまいB級グルメ的演奏の方が楽しめる。フランス料理はドビュッシーにまかせておけばいい。ということになると、作曲者自身の演奏によるディスクが、その自然さで最高。必ずしも作った本人のものがよいとはいかないのが演奏の面白さだが、モンポウにかぎると、本人の演奏の方が、異なる味が混じり合わずに混在するモンポウ音楽の不思議さは際立つように思う。ほかにいいディスクがあれば教えてください。


モンポウ:ピアノ曲全集(4枚組)/Mompou: Complete Piano Works

モンポウ:ピアノ曲全集(4枚組)/Mompou: Complete Piano Works

Houghの演奏がYouTube上にあった。


と思ったら、モンポウ本人の『歌と踊り』も。やけに雑音が多いが。