1月27日(土)と28日(日)の2日、NHK交響楽団が、アメリカの作曲家であるジョン・アダムスの『アブソリュート・ジェスト』を演奏する。2015年3月にウィーンを旅行した時に、ちょうど作曲者のジョン・アダムス本人がウィーン交響楽団に客演をしていて、この曲のウィーンでの初演を指揮したのに立ち会えた。とても面白く、よくできた曲なので、現代音楽が好きな方はお聴きになってみては如何だろう。生でなくても、Eテレの『N響アワー』でもそのうち放送されるはずだ。
『アブソリュート・ジェスト』は日本語にすると『冗談の極み』といったことになるだろうか。ベートーヴェンの第9や、弦楽四重奏曲の第13番、『大フーガ』などのメロディを巧みに用いてというべきか、それらの曲を換骨奪胎してというべきか、オーケストラのために仕上げた現代曲である。
曲は大した長さではなく、たしか一楽章ものだったというぐらいの記憶しかもうないのだが、オーケストラの前に弦楽四重奏を座らせ、ベートーヴェンのメロディの断片を用いた「冗談」が繰り広げられる。何が冗談なのか、聴く人が聴けば即座に紐解けるのかもしれないが、正直なところ言葉の本当の意味はよく分からなかった。私が聴いたウィーンのコンツェルトハウスでのコンサートでは、ジョン・アダムスが演奏前にマイクを持ち、「私のドイツ語はほんとに片言程度で」などと言いながら、澱みなく自作の解説をしていたのだが、肝心な部分は語学力の欠如で残念ながらついていけなかったので、「冗談」は未だに謎である。たぶん、N響のコンサートに行けば、パンフレットに解説があるだろうし、『N響アワー』でも教えてくれるだろうから、3年ぶりの謎解きを楽しみに待つことにする。
楽聖ベートーヴェンの、シリアスなメロディを換骨奪胎すること自体が、クラシックの作曲家にとっては「冗談」以外の何物でもないのかもしれず、実際、曲想はベートーヴェンのメロディがそれと分かるように活用されつつ、素っ頓狂な和声で包まれたり、へんな転調をしたり、といったところは、たしかにシリアスな曲には聴こえることはないし、そのへんてこりんさ加減が実に面白い、ということは間違いない。「冗談」って、そういうものなのかどうか、そこは謎の極みではある。
指揮はピーター・ウンジャンである。それ誰だっけ、そんな指揮者いたっけと思ったら、かつて東京クァルテットで第一バイオリンを弾いていたピーター・ウンジャンさんなのだ。腕の故障で演奏家を辞めたと聞いていたが、N響に呼ばれるほどの指揮者になっていたとは知らなんだ。これもまたどんな演奏をするのか興味深い。
ベートーヴェンが好きで、現代音楽が好きだという変わり者のあなたには格好の楽しみになるはずだし、ベートーヴェンはそれほどでなくても、現代音楽が好きというあなたにも一聴の価値はある。ジョン・アダムスはオペラ『中国のニクソン』で最初に記憶にとどめた人が多いのではないかと思うが、今年、ベルリン・フィルがレジデンスコンポーザーに選ぶほどの人気作家になっているわけだし。ただし、あの巨大なNHKホールで、弦楽四重奏とオーケストラを組み合わせた作品が精妙に聴こえるかどうかは保証の限りではない。サントリーホールやタケミツホールならよかったのにと思う。そして、カップリングする後半の曲目がホルストの『惑星』で、これがお嫌いでなければ申し分ないのだが、個人的には『惑星』なんか聴きたくないよと思ってしまうので、放送でよしとすることにする。いずれにせよ、またあの変な曲を聴けるのが楽しみである。