栂池高原-白馬大池-白馬岳-蓮華温泉(5)

【3日目】

■白馬岳から白馬大池

この日は山頂直下の幕営地から山頂を越え、ふたたび白馬大池まで下る短い行程である。
朝 4時に目を覚ますと、頭上には天の川が流れ、満天の星がまたたいていた。そうした空を見たのは、いったいいつぶりだろう。ひさしぶりに山に来てよかった、アルプスに来てよかったと思う。そうした思いを抱いた瞬間はこの旅の途上で幾度となくあったけれど、ともかくそうした瞬間の一つ。星屑ごときに感動する自分を発見する旅。よい旅は、新しい事物に出会うと同時に自分の中に埋もれていた何かに再び出会う時間、思い出すことをする時間でもある。

4時40分、キャンプサイトを後にして、再び山頂に向かう。星々が消えて、明るさを徐々に増す空に小さな三日月が輝いている。



白馬山荘を越えて後ろを振り返ると、薄明の中に剣岳立山がその姿を現し始めた。



山頂で御来光を仰ごうと動き始めたのだが、そこまで辿り着くには遅きに失した。それでも山頂直下で雲海の向こうから登る朝日を拝むことができた。何故だか知らないが、登ってくる朝日を見ると心がじんとする。



次の瞬間、朝日に輝く白馬の山稜。



しかし、この日の天気はこの時がピークだった。高山の天気は千変万化。太陽はあっという間に雲の向こうに隠れてしまう。それでも、ブロッケンの妖怪に出会えるなど、雲の山稜ならではの楽しみにも出会えた。



道端で朝ご飯をすませると、視界の限られる尾根を今度は白馬大池に向かってゆっくりと下るのみ。また、雷鳥の親子に出会えたり。



花々を眺めたり。





岩屑の道を足下に用心しながら下ると、また白馬大池山荘の赤い屋根が雲間に見えてくる。



この山行の白眉は、この白馬大池での幕営だった。山頂の幕営地から標準コースタイムでたった3時間半の道のり、普通だったらさらに歩いて下界まで降りてしまうところを意図的に打ち切って、この美しい山上の池畔で一泊する。



ここは天国に一歩近い場所だと思う。青い空とたっぷりとした残雪の白。透明な池の水。そして何よりもチングルマを中心とした一面のお花畑。散策をしたり、昼寝をしたり、写真を撮ったり。半日をのんびりと過ごす。贅沢というのは、こうした時間を差すのじゃないかしら。





【4日目】

白馬大池から蓮華温泉

下山する朝が明ける。テントの中でぼやぼやしていて見事な朝焼けは途中から目にした。それにしても、尋常ではない、したたるようなオレンジ色。



当初の予定に反し、新潟側の蓮華温泉に下ることにする。ここからは地味な森林帯で、もうあれこれ語るものはない。岩のごろごろする歩きにくい道を、汗に引き寄せられる羽虫の大群を引き連れながら、転ばないように、すべらないように気を遣いながらひたすら下る。この日も雲が多く、山は見えたり隠れたりを繰り返した。山頂方面は厚い雲の中。山麓も雲の下。





途中、天狗の庭と名付けられた開けた場所を通る。天気がよければ見晴らしがよいらしいが、この日は周囲は真っ白。



次第に下るのに飽きてきたと思い始める頃に目的地の蓮華温泉の赤い屋根が見えてくる。さらにひたすら下るのみ。



降り立った蓮華温泉。着いたのは10時半、次のバスが大糸線平岩駅に向かうのは13時半。3時間を一風呂浴びながらゆっくりとすごす。これも白馬大池に負けず劣らずの贅沢な時間。9時から営業を始める内湯はまだ誰も入っていない様子。それをよいことに写真を一枚撮らせていただいた。





楽しかった夏休みの記録。