松井稼頭央の活躍

コロラド・ロッキーズがレギュラーシーズン終盤にありえない勝率でまさかのプレイオフ進出を果たしたのは嬉しかった。松井稼頭央ロッキーズでプレイしているからだ。

西武ライオンズで活躍していた当時の松井はホークス・ファンであるところの僕にとっては天敵の一人だったが、敵ながら見ていて心躍る選手だった。メジャーに移ることになり、メッツとドジャースが競合するらしいという話を聞いたときには「ドジャースに行けばいいのに」と思った。ニューヨークはファンもマスコミも成績の悪い選手に容赦がない。松井がどんなによい選手でも、うまくアメリカに適合できるかはやってみなければ分からないし、もしうまくいかなかったら無茶苦茶に叩かれる。何を好きこのんでニューヨークに、と率直に思った。

ニューヨークにいた当時、伊良部のほとんど試合をテレビと新聞で追いかけ、メッツにいた柏田、吉井のニュースを読んで過ごしていた。当時、女房には「どうせスポーツ欄しか読まないんだから、ニューヨークタイムズを取るのやめてニューヨークポスト(現地のタブロイド紙)にしたら」と馬鹿にされ、「いや、音楽欄とアート欄も読んでる」というのが反論の口上だったのが我ながらなさけない。それはさておき、たった一度だけ生で観たメッツのゲームでは、吉井が先発し、早々と5点を取られて2回だか3回だかに盛大なブーとともにマウンドを降りるのを目撃した。あのブーイングは、体験してみないと分からないと思うが、明るい禍々しさとでも言うべき、異次元の迫力がある。底意地の悪い非難ではない。しかし、万を超える人々の、猛烈に明々白々のメッセージが込められている。

「俺が楽しみにしてきた試合をぶちこわしにするな!」

そんな感じ。あるいは、

「ン百万ドルの給料をもらってんなら仕事をしろ!」

という感じ。日本の会社で働いていると、社内の無言の圧力というか、後で裏にまわって非難をされそうな雰囲気を感じる場面に出会うが、そういうものとは全く違ってあれは有言の圧力だ。言葉にはなっていない「ブー」の中にファン個々人の明確な批判の声が込められている。あのブーにはアメリカ人、あるいは西洋人を感じるな。

あのニューヨークのブーを乗り越えてヤンキースで堅実な選手としての評価を得ている松井秀喜はすごいと思う。また、それなりに評価を勝ち得た吉井だってすごいと思う。しかし、誰もが彼らのようにできるわけがない。実際、松井稼頭央にも、井川慶にもできなかった。でも、あの容赦のないファンの罵声を知らないで彼らを非難するのはやめた方がいい。それにそもそもニューヨークでチャレンジすることに何か意味があるのか?

ともかく、2年半をケガとブーイングとともに過ごした松井稼頭央ロッキーズで本来の力を発揮し、周囲に認められる存在として頭角を現してきたのを見るのは気持ちがいい。
以上!