松坂は本当に「本領まだ」なのか

今日の朝日新聞スポーツ欄にメジャーリーグポストシーズンでの日本選手の活躍を特集した記事が掲載されており、その中で松坂大輔に関して「V貢献の松坂、本領まだ」という見出しで総括が行われている。

シーズン同様、先発2、3番手として、まずまずの数字しか残さない松坂を見ていると、「怪物」と言われた右腕はどこに行ってしまったのか。開幕前、さほど期待されずに中継ぎエースの座をつかみとった岡島の活躍と比べると寂しさが残った。

こんな風に締めくくられる記事だ。
これはお門違いだと思う。松坂はシーズン当初、ボールがあわない、思ったようにスライダーが曲がらないと訴える本人の言葉が盛んに報道され、慣れさえすれば、そのうちもっといい投球を見せるようになるだろうという期待感が日本国内で醸し出されていた。僕も同じように期待をしていた。しかし、彼の成績は下がりこそすれ、上昇する機運はけっきょくなかった。ボールやマウンドへの不適応だけが理由で彼が打たれたとは僕は思わない。起こっていることは伊良部の時と同じだからだ。

伊良部のスピードとフォークがあれば、打線が強力なヤンキースに来た伊良部はロッテ時代よりも勝てるのではないか。僕はそんな風に想像して彼の試合を当時駐在中のニューヨークのテレビで追い始めた。しかし、メジャーリーグのレベルはそんな簡単なものではなかった。ホークス・ファンなので少しは知っているが、伊良部の速球は、日本ではかなうものがいなかった。その速球がまるで打ちごろの球のようにはじき返され、日本であれば確実に空振りになるだろうボールがスタンドに向かって飛んでいく。ニューヨークのテレビでほとんどすべての伊良部の試合を追いながら、一介の野球ファンはメジャーリーグの凄さを思い知らされたわけだ。朝日新聞が書くように松坂の本領がまだというよりも、メジャーと日本が違うという単純な証左だと僕は思う。速い“だけ”では通じない。

アメリカの野球は大振りだということを言う人がいるが、それはかなり眉唾で、メジャーのよいバッターは球もしっかりと見極める。松坂はそもそも日本では、桁外れの球威が少々のコントロールの悪さを補ってしまうという投球で勝ってきた投手なので、そのスタイルが通じていないということなのだと思う。現にキャッチャーのバルテックが構えるところに球が行っている日は安心してみていられる。そうではない日には、球を見極められ好球必打の餌食になってしまう。少々の速い球ではメジャーの超人からは日本でのようには空振りをとれない。

岡島の成功に見るように、メジャーで日本のピッチャーが通じるか否かはコントロールの良さにある。岡島も、メッツで中継ぎとして活躍した柏田も、いいときの吉井も、ドジャースの斉藤も、コントロールがよい。僕はヤンキースタジアムロジャー・クレメンスを見てその球の速さに度肝を抜かれたのだが、その数ヶ月後に横浜スタジアムで斉藤を見て「なんて遅いんだろう」と思ったのだった。場内の掲示板には時速147キロが表示されていたから、日本では速い部類だが、メジャーでは並みだ。それでも一流チームの抑えとして斉藤が活躍する。朝日の記事は、こちらとあちらとでは成功要因が違うということを押さえていないのではないかという不満が残った。松坂については、ここからどう適応していくのかを見るのが来年以降の楽しみだ。