ビジネスとしての創作

今日は休みを取って、横浜港まで片道1時間弱のサイクリング。我が家からの行程は坂の上り下りが入るので、なかなかいい運動になる。平日でがらがらの中華街で昼食をとり、港を望む山下公園のベンチでのんびりと読書三昧。このブログのための写真を少し撮りためた後、毎日のごとく本屋をひやかして帰宅。


昨日のエントリーに記したドイツのWikipediaの新方式については、なんだかまだよく分からないことだらけだが、今日仕入れた情報から一つだけ補足しておくと、どうやら今回、審査を導入する“Stable Article”はすべての項目について適用されるわけではなく、あらかじめWikipediaの事務局が定めた項目に対して実施される模様。ドイツのIT系ウェブメディア「PC Professionell」からの情報です。これは僕の想像だが、要は政治的に重要であるなど、社会的な影響力が大きいトピックに対して適用されるのではないかと思う。

■Stable Article−ヴァンダリズムと戦うWikipediaのコンセプト変更(PC Professionell 8月24日(ドイツ語))


昨日楽しませていただいた港北区民交響楽団のコンサートは、最後に『隣のトトロ』のテーマソング『さんぽ』をオケの伴奏で大合唱して終わったのだが、この曲、聴くたびに名曲だなあと感動してしまう。ましてや、狭いホールにたっぷりと鳴り響く生のオケで聴くと何をかいわんや。作曲した久石譲さんのメロディーメーカーとしての力はほんとうにすごい。


その作曲家・久石譲が自らの創作体験を綴った最新の新書本『感動をつくれますか?』を読む。六章立てで、第一章、第二章で創作に向けた久石さんの内面の動きを綴り、第三章が映画音楽制作の実際と心構え、裏話、第四章で音楽に対する久石の考えを述べ、第五章を創作する立場から見た日本、第六章で彼が現在力を入れているアジアでの活動について語る。


僕は久石さんについてほとんど知識がないので、あの誰もが魅了されるメロディを作るスター作曲家がいったいどんな話を書くのだろうと興味津々で読んだ。久石の語りには、それが作家であれ、音楽家であれ、創造活動を仕事にする一流の話に通じる普遍的な創作の姿勢が読みとれる。与えられた条件の中で常に最高のものを目指し、自分をぎりぎりのところに追い込んで最良の結果を得ようと努力する。心構えの問題として、あらゆる職業人にとって範となる雰囲気にこの本は満ちている。実に真面目な方だ。本書の中で「セレンディピティ」という言葉を使って、彼の創作態度を説明している箇所があるが、こういう人が使うとこうした流行言葉にも真実味が出る。


本書がユニークなのは、久石さんが自分は芸術家ではなく、商業ベースで仕事をしているということを本書の最初に宣言している点だ。時間、予算、監督やその他の意向の中で仕事をすることの実際が久石の内面の動きにどのように影響を及ぼし、彼がそうした所与の条件の中で如何に創造的な仕事をしているのかが実に分かりやすく説明されている。つまり、この本は、商業主義の中でクリエイターが如何に生きているかの証言なのだ。


印象的なのは、映画の仕事の際に、がんばって曲を作って持っていって監督に手を入れることを求められると、がっくりするという趣旨のことを一度ならず言っている点。おそらく、日本の商業音楽のシーンでは比べる者のない存在であろう久石譲ですら、そうやって妥協をしながら仕事をしているんだなと知ると、我々組織に生きるサラリーマンにはちょっと救われるものがあります。

感動をつくれますか? (角川oneテーマ21)

感動をつくれますか? (角川oneテーマ21)