電子書籍

リアルの世界ではしばしご無沙汰している美崎薫さんからメールが届いた。「どうもよのなかにある電子書籍リーダーが気に入らず、気に入らないので、自分で作りました」とあった。背表紙が見えたり、読んだページの上に書き込みをするように付箋をはったり、と人が電子書籍と騒ぎ出す随分前からこの世界にどっぷりの美崎さんらしい機能が付与され、Windows7と8上で動くらしい。

僕は道具というものに対して美崎さんほどのこだわりはないが、電子書籍がいまひとつという気持ちは僕なりにもある。リーダーソフトもそうだけれど、とくにハードの面、電子書籍端末についてはもう少し使いやすくならないかとは思う。そう思いはするが、こちとらは使わせて頂くだけの真砂の一消費者なので、まあ、世の中の動きについていくだけ。文句を言いながら、TPOに合わせて使っていくしかない。

これまで使った電子端末は、最初がKindle、それからソニーの製品を少しだけ試し、今は日本版のサービス開始に合わせてKindle Paperwhiteを使っている。当初のキーボード付きの端末に比べ、タッチスクリーンの端末は格段に使いやすい。ただ、重さと左手で持った際の質感は満足の閾値を満たすまでには至っていない。通勤途上で本を読む際に、50歳を過ぎて筋力が落ちている身にとって213グラム(だそうだ)は微妙に重い。自分の年齢の重たさなのかもしれない。そうだとすると、なんと軽い重さなのだろう、とも思う。

一心不乱に読んでいると、ある瞬間に電池切れサインがチカチカと点滅するという事態にもまだ慣れない。自分にとって本であることを期待するということの意味は、どこまでも紙の本であることを期待するのと同一だと気がつく。昔ながらの観念にロックインされているのは、やはりつくづく年齢を感じる。

それでも場所をとらない、摩耗しない電子版の良さは否定すべくもない。開高健の闇三部作が最近電子版で出たことを今朝知り、思わず買ってしまう。三部作全部が「一冊」になっていて、1,050円という安さ。三部作の白眉『夏の闇』は全集、文庫で2冊、手書き原稿復刻版で買っており、5回目の購入になる。紙は傷んだり、なくなったりということがあるので、いつでも、どこでも、いつまでも読める電子版は作品の購読に保険をかけるような気分で買う部分がある。