『ウェブ時代 5つの定理』をさらに少し読み進める

吉本隆明の文体を操るブログ界の才人、finalventさんが、『ウェブ時代 5つの定理』について面白い感想を書いています。この本の裏に存在する黒いもう一冊の本が頭をよぎるというのです。

http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20080302/1204419213


昨日、まだほとんど読んでいないままに、第一印象を書き連ねました。今日は「第2定理 チーム力」まで読んでの感想ということになります。

昨日、梅田さんは分かる者が分かればよいという書き方をしているように思えると書きましたが、最初の章(第一定理)の「倫理観を持った者が社会を牽引する」というセクションが次のような言葉で始まるのに目がとまりました。

シリコンバレーとは「上」を伸ばす場所だと、つくづくそう思います。(p59)

昨日の感想にもまして、この本で梅田さんはそうとう割り切ったなあとあらためて思いました。そもそも、梅田さんのメッセージは、本質的に「上」の人たちに向けられています。能力のある人たちが型にはまった生き方をしている社会はおかしいんじゃないか。だから若い優秀な人には柔らかい発想と行動力を発揮し、もっともっとハッピーな道を目指して欲しい。そういう人も出てきて欲しい。新しい生き方がさらに次の人たちの新鮮なお手本になることによって、日本社会の硬直した仕組みは少しずつ変化していき、よりよい循環が生まれれば素晴らしい、ということだと思います。

そうしたメッセージに対して、梅田さんならば目を付けるだろう「上」の人たちばかりではなく、「上」を目指す向上心のある人たちが反応して、梅田ブームとでも言うべき状況が胚胎した。誤読は読者の権利ですからね。この辺りの構図は『赤頭巾ちゃん気をつけて』の庄司薫のケースと似ているところがあると思います。そして、両者を比較することが時代を浮き彫りにする材料になる。それが「私」の生き方をあらためて考える契機にもなる。

最近は大江健三郎を読み直している関係で、大江健三郎梅田望夫という対立軸でもいろいろと想像をめぐらしてもいるのですが、これも面白い。大江さんも、梅田さんも反権力的という点では実はとても似ていると思いますけれど、理念にこだわる大江さんと、プラグマティックに発想する梅田さんとではまったく波長が違います。でも、先日初めてお会いした際にEmmausさん(id:Emmaus)さんが各人の持つ「波長」という言葉を使っていたのですが、それを思い起こすと、異なる思想を持つ人の波長もどこかで交わったり、干渉したりする。そこを基点に二人の人物について考え、それが「私」について考える材料になる。

CNET Japan」の連載によって優れたITコンサルタントとして知った梅田さんは、いつの間にか僕の中では、大江さんなどと同様、世の中を考えるベンチマークの出発点のような人物になってしまいました。梅田さんや大江さんが正直にものをいう人だからで、これはとてもすごいことです。僕もそうでありたいと願ってはいますが、言うほど簡単ではありません。