梅田望夫著『ウェブ時代 5つの定理』を読み始めた

最近、大江健三郎ばかり読んでいる関係で、他の本がおろそかになってしまっているのですが、やっと話題の『ウェブ時代 5つの定理』を読み始めました。いい本ですね。他者の言葉に託して、梅田さんは、この本でご自身をもっともストレートに表現できたと感じているのではないか。その点で、僕は本書を『シリコンバレー精神』の系列に連なる一冊だと受け取りました。

梅田さんの著作のうち対談ものの二冊は、相手があることでもあり、必ずしも自分の意のままにならない部分が構造的に残ります。著者には、ある種のフラストレーションもたまるでしょう。前著『ウェブ時代をゆく』は、本来彼の守備範囲を超えて様々な生き方を選ぶ若者に向けても語りかける印象があり、その敢闘精神にこのブログでも大いなるエールを送らせていただきましたが、梅田さんは無理を承知でそれを行っているという印象はどこか否めない点がある。いや、それを悪いと言っているのではないのは誤解のなきようお願いします。大いなるチャレンジであるという意味では『ウェブ時代をゆく』は、梅田本のなかではぬきんでているし、影響力もものすごく大きかったと思います。でも、梅田さんならではの竹を割ったようなものの言い方を殺しているところもある。

同じことを繰り返し言うことになるのですが、それに比べて『シリコンバレー精神』は、梅田さんがもっとも率直に表現されている著作だと僕は考えていました。書かれている内容に関しても、個人的にもっとも動かされるものがあった一冊を挙げるならば、僕の場合は『シリコンバレー精神』です。ついでに言うと、内容的に「面白かった!」と拍手し、いまだに書かれた内容について反芻するのは平野啓一郎さんとの対談本である『ウェブ人間論』です(『ウェブ人間論』については、今日は置いておきましょう。またあらためておしゃべりをさせていただきたいとおもいます)。 『シリコンバレー精神』については、これだけの内容の本が前著の『ウェブ進化論』に比べてあまり評判にならないのが不思議だと思う一方で、言い過ぎを恐れずに言えば、読み方によっては前向きな誤読を誘う内容が一挙に梅田望夫の名前を世に押し出した『ウェブ進化論』、『ウェブ進化論』の大きな読者層に向けて書かれたと言ってもよい『ウェブ時代をゆく』とは異なり、まさにシリコンバレーの実態と精神風土を語った『シリコンバレー精神』には、自ずから読者を選ぶ傾向があったのだと僕は考えました。とすれば、『ウェブ時代 5つの定理』の売れ行きがどう転ぶかは、どっちの読者にもっとも響くかでかなり異なってくることになる。そんな風に言えると思います。

でも、技術者でもないし、シリコンバレーに住みたいと思ったこともない僕が『シリコンバレー精神』に動かされたように、梅田さんが意図する読者は必ずしもシリコンバレーを目指すようなエンジニアに限られてはいない。「天は自ら助くる者を助く」の精神を持ち続ける者であれば、この本は読者にスイッチが入るようにできている。そういう人に読んでもらいたい、あるいはそういう人が読めばいいという風に書かれている本だと思います。その割り切りに梅田さんの素の明るさが読める本らしいぞ、というのが、まだぱらぱらと目に付いたテキストを斜め読みしているだけなのですが、僕がこの本に抱いた第一印象です。冒頭の、「私を企業へと駆り立てた言葉」という文章が、とても梅田さんらしく、きれいです。

僕は「これから梅田さんは世間に向かって『シリコンバレー精神』の梅田さんでいくのかな、それとも『ウェブ時代をゆく』の梅田さんでいくのかな?」と疑問をもっていたのですが、一連の著作の最後の作品と自ら位置づける本書によって、梅田さんは自らの立ち位置をはっきりと示したことになります。この辺りの見事さが、我が身を振り返って「かなわないなあ」と思わされるところなのです。本書については、また断片的に続きを書くことになると思います。大江健三郎の話はもううんざりでしょうが(きっと、また書きますけどね)、梅田本の話題なら読んでいただけるはずとも思いますし。


ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!

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