一流の経営

ハーバード・ビジネス・レビューの11月号は「一流の経営」がテーマ。特集の最初ではGEのケースが論じされている。

彼(GEの会長ジェフリー・イメルト)が掲げた新しい目標とは、内部成長(M&Aに頼らない成長)を維持することである。しかも、世界のGDP成長率の2〜3倍のペース、つまり現在ならば約8%の成長率を達成することになる。むろん、前例は少ない。売上高が1500億ドル規模の企業では皆無である。(中略)

彼が考える限り、ほかに選択肢はない。「もし今後10年間、成長率が4%にとどまるなら、GEはもはや傑出した企業とは呼ばれなくなるでしょう。大切なのは、高い生産性を維持しながら成長率を高めることです。それができれば、今後100年間も『最も賞賛される企業』であり続けられるでしょう」
(「GE 効率経営を継承し「有機的成長」を目指す」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2007年11月号)より)


成長が、「最も賞賛される企業」であることが、人を吸引し、従業員を動機付け、成功体験や成果としての賃金がまた働く者の次のがんばりへの原動力になる。おそらく、こうした一流企業では、そうした好循環が常に動作しているのだろう。よい会社は、前向きに働く者に対して純粋にゲームを楽しむ感覚で仕事をすることを可能にするのだと思う。すくなくともある程度までは。

理屈としては、そのことはとてもよく理解できる。でもそうした理解はあまりに図式的にすぎると思えるし、僕はビジネスのセンスに欠けている人間なので、実感としては正直なところぴんとこないところがある。日本の企業で言えば、たとえば常に産業界の賞賛を集めるトヨタ自動車。日本では飛び切りの売上高と利益を稼ぎ出すトヨタだが、どうしてそこまでやる必要があるのかが分からない。彼らの言動からはそれは見えてこない。「こうするとうまくいくから、こうしないとうまくいかないから、しているのだ」というのは分かるのだが、じゃ、うまくいこうとしているのは何のため?と尋ねたいのである。成長していないといつか停滞し、亡き者とされてしまう本能的な恐怖心はあるだろう。動物的な生存への欲求を生身の人間の集まりである企業が持っていることに不思議はない。それに成長は、速さがものを言う時代になり、従来以上に大きな差別化のポイントになる。そこは見える。しかし、そこばかりが見えるような気がしてしまう。

そこで得られた巨万の利益を彼らは何に活用しようとしているのか。具体的なビジョンがないままにひたすら利益を追求すること自体を目指しているのなら、そんなの止めてもっとのんびりとできたり、社員個人の自由がもっと効いたりする会社である方がよくはないか。賞賛の的からは遠のくとしても。

僕は、ある意味で答えの分かっている不毛な問いを掲げているのかもしれない。大きな企業の弱点は、理念や目標、合理的価値観で社員を引っ張っていかざるを得ない窮屈さにある。途中で妥協できない柔軟さの欠如にある。頭がよいリーダーに論理的であること、合理的であることをとことん追求されると、ついていく立場の者は時としてたいへんだ。