お化け

僕自身はお化けの存在をまじめに取り合うつもりはないのだが、お化けをまじめに考える人たちがいることをちゃかすつもりはない。自分自身が、いつそういうものを信じる気持ちにならないとも限らないとも思っている。

僕がこれまで知己を得た人の中に幽霊とつきあいのある人はほとんどいないが、えっこの人が、と思わず口走ってしまいそうな、普段は割り切った合理主義者がお化けに出会った話を語り出して意外に思ったことがある。その女性は、ニューヨークで仕事の付き合いがあった日本人の方なのだが、ある夏休み、バケーションで訪れたスペインの古城で、血塗れの城主様につきまとわれてどうにかなりそうになったと言うのである。その人のてきぱきとした仕事ぶりや、普段の竹を割ったような立ち振る舞いを知っているだけに、どう反応して良いかわからずに、その時はただただ困惑をした覚えがある。

その話をある人にしたら、「すべては脳内現象ですから」と、身も蓋もない反応が返ってきた。おそらく間違いなくその通りなのだろうけれど、大人のコミュニケーションとしては、そこにもう少し色つやみたいなものが欲しい。それに、あちらに行ってしまった人が自分の肉親や知り合いに増えてくると、会えるものなら会ってみたいとも思う。茂木健一郎も『脳と仮想』で小林秀雄が飛んでる蛍に母親を見た話を書いていたっけ。

ブログに書くほどのこともない素朴な感想だが、くまさんが一昨日のコメント欄で紹介してくださったサンクトペテルブルクのホテルでチャイコフスキーとおぼしき幽霊に抱きつかれた話に触発されて、こんな話を思い出した。クラシック音楽に興味のない方にも面白がっていただくために説明すると、最近の研究でチャイコフスキーホモセクシュアルだったことが明らかになっている。