日本は、共同体の掟で守られることによって個人の安全を確保しようとする「安心社会」、西洋は個人同士のつながりを積み重ねて自らの安全を構築しようとする「信頼社会」。「他人を信頼するか」というアンケートをとると、日本とアメリカとでは、答えに決定的な差異が生じるのだという。つまり、日本人の平均的な回答は、他人を信頼する度合いが非常に低いのである。
見通しのよい集団主義の人的ネットワークを基盤に成立する安心社会では、「あいつが悪い」というネガティブな個人の情報を共有することによって人はハッピーになり、個人と個人の関係を拡張することに信を置いて人が動く信頼社会では、もしものときための司法制度を発達させつつ、普遍的な価値を意識しながら自己実現を図ることによってハッピーになる。
では、インターネットの到来は、今後の社会に仕組みにどのような影響を及ぼすのだろうか。こうした問題意識を基に、ネットワークオークションにおける評価と評判の仕組みを分析しながら、本書は我々にとってのインターネットの意義を問い、インターネットを通じたよりよい社会の実現可能性を問うている。
著者が本書の最後で洩らしている感想は、楽観的とは正反対で、我々日本人の読者にとって必ずしも心地よいものではないが、誠実で、読者に自らその続きを考えることをいざなうものだ。ネットの日本語空間で情報発信をすることの価値と、現実にそこここで感じる無力感と、そんな思いの背景が見えてくる本である。200ページちょっとの小さな選書だが、あちこちで立ち止まり、考えをめぐらす楽しみを味わってもらえるのではないかと思う。
著者の一人である山岸俊男さんは著名な社会心理学者だが、僕はこれまで一度も読んだことがなかった。前著の『安心社会から信頼社会へ』も手にとってみたくなった。
- 作者: 山岸俊男,吉開範章
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- 作者: 山岸俊男
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