本は編集者が作る

第1回ARGフォーラム「この先にある本のかたち:我々が描く本の未来のビジョンとスキーム」の様子を報道やブログで拝見した。


■『CNET Japan』8月21日

■『かたつむりは電子図書館の夢を見るか』2009年8月18日


このフォーラムの後半で、ジャーナリストの津田大介さんがご自身のジャーナリストとしての体験を下敷きにして、出版の現在と未来に関して発言をしていている。津田さんは一冊書いて百万円に満たない現在の印税額のレベルでは、職業著者を育てるのは難しいという意見を表明し、今後の出版社の役割を「読者と執筆者をつなぐファンクラブのような「情報中間業」」と非常に苦しいビジョンで語っている。

続いて登場した橋本大也さんは、津田さんの問題提起を引き継ぐかたちで「印税1割ではなく、印税9割を実現する取り組みを」と現在の出版産業のあり方を根本的に否定する方向での問題解決の方向を示唆している。

出版の原価に即して言えば、印税9割どころか2割に上げろと脅すだけで出版社はつぶれるのが現実だから、橋本さんの提案がいまの出版の業態に即して本を出すのではなく、新しい電子出版を実現し、ITを使って原価を抑えようという話であることは容易に分かる。

橋本さんの論が前提にするところでは、本は著者が作るということになっている。しかし実際には、もちろん著者がいなければ本はできないのだけれど、本は著者が作ると同時に編集者が作るものだ。ある種の本は著者や訳者はいかようにも取り替えが利くけれど、編集者はそうはいかない。橋本さんの論には、そこのところは抜けている。

編集者のコストは現在の制度では出版社が担っている。電子出版の時代になっても、編集者がいなければ、面白い本、素晴らしい本は容易には生まれないだろう。著者が個人編集者を雇って印税9割の中から自腹を切って本を作るというのは、ちょっと想像しがたい。だとすれば、編集者は誰が雇うのか。そのコストはどこが負担するのか。そこが電子出版のひとつの問題。