「シュンポシオン横浜」へのお誘い(10):最高の贅沢は一緒にいる人と場所を選んだ語らいだ

12月13日に開催するブロガーの集まりを「シュンポシオン横浜」と名付けました。今日は、この「シュンポシオン」という言葉について説明をしておこうと思います。そもそも、この言葉は2年ほど前に亡くなった小説家の倉橋由美子の造語で、彼女はその名も『シュンポシオン』と題する小説をものしています。倉橋の『自然の中のシュンポシオン』というエッセイをひもといてみましょう。

人間の楽しみの中で最大のものは酒食の楽しみで、それについて贅沢を極めていくと最後には一緒にいる人を選び場所を選ぶことになる。

人間の宴会には食べ物と酒とおしゃべりが必要で、これが神の宴会ならネクタルがあればよいが、そこで交わされているおしゃべりについては人間の想像には及ばない。人間のおしゃべりは「談論風発」から猥談までいろいろあって、ギリシア人たちは寝そべって飲み食いしながらおしゃべりをしていた。これが「シュンポシオン」である。

世の中の最高の贅沢は、素敵な人たちを集めて素敵な場所で歓談をすること。そう、それが「シュンポシオン(『饗宴』)」なのです。

5月半ばに「横浜小会議」と銘打ち、今回と同じようにブログ上で「集まりませんか」とお声がけをさせていただいたら、二週間ほどの告知期間の間に十数名の参加者が集まりました。何度かお会いしている方、初めてお会いする方が入り交じって和気藹々の交歓となったその集いがとても楽しくて、「あぁ、これこそ倉橋由美子が書いていたシュンポシオンだな」という想いが頭の隅をよぎりました。数日後に次の集まりを宣言したときに、躊躇なく「シュンポシオン横浜」と命名した次第です。

もっとも、かっこつけて「シュンポシオン横浜だあ」と声を上げたら、id:simpleAに「シュポシュポ」と混ぜっ返されてしまい、ブログ仲間の間ではあっという間に「シュポ」だとか「シュッポ」だのの方が通りがよくなってしまいましたが、まあいいでしょう。精神は、まさにそのまま生きていますから。

「シュンポシオン」というカタカナ言葉は小説家・倉橋由美子の造語だと書きましたが、面白いのは、これを英語にすると「symposium」、つまり普通に日本語にすると「シンポジウム」となるべき言葉だという点です。


http://en.wikipedia.org/wiki/Symposium


倉橋はこう言います。

今日「シンポジウム」と呼ばれているものは、えらい先生方や文化人が並んで政治だの国際関係だのと高級そうな問題を議論することになっている。実はこれが野暮のきわみで、困ったことにこれには酒が出ない。場所もよくない。本物のシュンポシオンをやるためには会議用のホールでは駄目で、寝そべって歩く回ってもよいところ、そこで一番いい場所はやはり野外ということになる。

Wikipediaをご覧いただいてもわかるとおり、ギリシャ時代に貴族たちがやっていた「symposium」は寝っ転がっての、物憂げで楽しいおしゃべりの会でした。そこで倉橋は本来の意味の「symposium」を小説の素材にするにあたり、肩肘張った「シンポジウム」という表現を避けて「シュンポシオン」という仏独後風訳語ないし造語を充てたのでした。繰り返しますが、それが「シュンポシオン」です。そして、今年日本全国、さまざまな場所で行われ、ブログ上で報告された奇跡のような出会いの物語は、何れもまさに「シュンポシオン」なのだと思います。だって、そうじゃなければ、どうしてこんな感想が出てくるでしょうか。

楽しかった。どうしてこんなに楽しいのだろう。人と会って話をする。ただそれだけのことが・・・ 中山さんのエントリを読ませていただいて、なるほど、と納得していたのですが、やっぱりまだ良くわかりません。とにかく楽しいので、もっといろんな人と会って、自分なりの答えを見つけたいと思います。
(人と会って話をした。楽しかった。『design,web,computer & others』2008年11月12日)

残念ながら、12月3日の会の前半は酒も飲み物もなく、場所も会議室と、その点ではまったく「シュンポシオン」になっていないのですが、ロケーションは世界への玄関・ミナト横浜の中心部という絶好の場所、せめて気分は「シュンポシオン」でいきたいと考えています。だから、参加者の皆さん、参加を検討している皆さん、どうか当日はあらゆる日頃の憂さを振り捨てて、「よしいくぞ!」とまなじりを決したりもしないで、うきうきとした気分だけを携えてお越しください。第一部のプレゼンテーションをお願いした勢川さん、中村さんにはそんな楽しく前向きな雰囲気づくりをしっかりしていただけるはずです。第二部の20代の皆さんの自己紹介とともに最高の酒の肴をつくって、第3部の懇親パーティ、つまりほんものの「シュンポシオン」になだれ込みたいと思います。