『さようなら、私の本よ!』

NHK交響楽団の定期公演が始まる30分前のNHKホールの椅子に座って、大江健三郎の『さようなら、私の本よ!』を読んでいた。僕の左隣に席がある年配のご夫婦が僕の前を横切ろうと「すみません」と声をかけてきたので、腰を浮かしお二人のために狭いホールの座席の間に空間をつくった。二人が僕の前を過ぎ、あらためて腰を下ろそうとしたときに、誤って手に持っていた本を前の座席と床との隙間に落としてしまった。本はちょっとした手が入りにくい空間に入り込んでしまい、掻き出すのに難渋してしまった。危うく「さようなら、私の本よ!」となるところだった。