俯瞰する視線

新しい職場二日目。誰も出勤していない7時のオフィスに出て就業時間まで自分の時間として使う従来のパターンを今日から再開。前の職場では決まって出てくるのは三番目だったが、出版社は夜型の職場なので僕が出社する時間にはまだ誰もいず、電気も付いていない。ひっそりとした穴倉のような場所で、ブログを書くのもなかなか悪くない。

新しい職場にきてつくづく思うのは、一定の以上の期間生き残ってきた会社というのはある方向で進化を遂げてきた動物のようなもので、会社の持っている従前の仕組みの範囲ではとても洗練されているなあということだ。ああ、こんな複雑なことを平気でやっている、こんな工夫もしている、こんな知恵がある、すごいと圧倒される部分がある。昨日はそんな感じだった。

ところが一方では、みな同じパラダイムに染まって行動しているので、半ば自動的に与えられたフィールドの中で窮屈に仕事をしているようにも見える。同じ方向に走るという点は、企業というのはそうでなくては力を発揮できないわけで、世の管理職向けビジネス本や雑誌は「いかに組織の力を束ねるか」みたいなことを一生懸命語っている。ただ、市場が安定して伸びている間はそれでよいとして、成熟業界の中で企業のお客さん相手に仕事を増やそうとしているときに、そうした習い性の部分だけでよいのかと考えると、必ずしもそうは言えないだろうと思えてくる。

僕は頭でっかちな人間なので、「むしろこっちの方向に行きたいな」というのはすぐひとつ、ふたつとアイデアが出てくるのだが、実際に人を組織して今までとは異なる方向に向かわせるのは一筋縄ではいかない。皆さん、ご自身の仕事の中では一国一条の主であるわけで、そのプライドややりがいを無視するわけにはいかないし、売上のノルマを背負った管理職としては、既存の稼ぎを捨てて別の何か新しいことをやろうとお気楽に言うわけにはいかない。僕自身、この業界の仕事の詳細がまだよくわかってもいない。まずはスモールスタート。自分一人の仕事の範囲で、お試しで少しだけ新しいことを仕事にしのばせる。そうやって実績を作って人を納得させるだけの下地をつくるといった動きをここでは少しずつ積み重ねるつもり。

今の僕のように部外者の視点を持った者は、自然と組織の全体像や特徴を俯瞰する視線でとらえることができる点は面白いなと思う。これが一週間経ち、ひと月が経ち、一年が経って「仕事にかなり慣れたなあ」と思う頃にはきっと無理矢理にそうしない限り俯瞰する視線は獲得できなくなっているはずだ。こういう全体が見やすい時期にしておくべき苦労もあるはずなので、サボらずに頭を働かせていきたい、と自分に言い聞かせる意味で書いておくことにする。