『ウェブ時代をゆく』は梅田さんがはっきり出た本だ

梅田望夫著『ウェブ時代をゆく』が力作であることは言を待たない。著者の力の入り方は並大抵ではない。何よりも、その熱意と知力によって次代を担う若者たちの精神的な先導者たろうという梅田さんの心意気に、まずは一読者として敬意を表しておかねばならない。

シリコンバレー精神』以降、梅田本が出るたびに、このブログで感想を書いてきた。だが今回はちょっと勝手が違ってしまっていて、よかったのか悪かったのかよく分からないが、ブログでエントリーを書く前にいろいろな方々の文章を読んでしまった。それらの、ほぼ例外なく熱い支持を目にした以上、何かを書こうとしたときに影響を受けないではいられないし、すでに前向きで素晴らしいメッセージをたくさん目にしてしまったので、やはりどうしたって書きにくい。これだけさまざまな賛同と支持の声があがっているのであれば、今さら僕がここで何かを言うこともないし、正直、同じことを書いてもおもしろくないじゃんという気持ちもある。でも、先日梅田さんから「感想を楽しみにしています」と言葉をもらっているので、当方の気持ちとしては、それに対して梨のつぶてというわけにはとうていいかない。やはり。

基本的には、僕は梅田さん支持の立場であり、その姿勢は崩すつもりはない。若者の自立を応援する識者がいて、彼を当の若者たちが多大の共感を持って受け止めている以上、それはそのことだけで支持に値することだし、大きな組織に頼らずに自分の力で生きていこうよというメッセージは、なによりも僕自身の性向に合致するから。僕は自分自身が団体行動が嫌いで、にもかかわず頑張って一生懸命まわりにあわせるような子供だったので、自分が若いときにそういう風に言ってくれる大人がいたらどんなにか励まされただろうと考えると、それだけで梅田望夫支持の感情は高まるのである。

昨日はかつての村上春樹に梅田さんをなぞらえたが、1年前にはマーティン・ルーサー・キングを引き合いに出した。『ウェブ進化論』でヴィジョナリストとしての力を示した梅田さんだが、シリコンバレーに日本の若者を連れてこようというメッセージを読んでいると、公民権運動を指導したキング牧師のようなエヴァンジェリスト社会運動家としての役割はもっと大きくなるだろうと書いた。大袈裟と言えば大袈裟。しかし、あながち比喩として間違いではないし、1年前よりも今の方が賛意を示してくれる人の数はぐんと増えているはずだ。

■ビジョンとドリーム(2006年7月31日)


その後、『シリコンバレー精神』、『ウェブ人間論』、『フューチャリスト宣言』とほぼ一年の間に3冊もの著作が出て、梅田さんの考え方に対する僕の知識もいちだんと増えた。いろいろなことを勉強させてもらい、梅田さんがどんなことを考える方についてもより正確に理解できるようになってきた。大ヒットとなった『ウェブ進化論』と対をなすと著者が言う本書によって、梅田さんに対する世の中の理解はまた一段と進んだと思うし、梅田さんの思想に共感する人々の心をいっそう掴んだと思う。「ロールモデル思考法」を開陳してくれたことは、本書の大きな価値だろう。実利的でためになる。それから「けものみち」という比喩も楽しめた。『ウェブ進化論』で「あちら側」と「こちら側」という卓抜な表現でITの世界の最前線を解き明かした言葉の力が、今度の本でどのように発揮されるのか、今度はどんな二分法をもってくるのかと楽しみにしていたのだが、「高速道路」に対して「けものみち」が来るとは思いもよらず。最初は「おぉ、けものみちかよぉ」と思ったが、読み進めるうちにあっという間に「なるほど」と思えるようになってしまった。

「勉強になりました」あるいは「楽しめました」というだけの話になってしまったが、時間がなくなってしまったので今日はここまで。啓蒙本としての本書の価値は、梅田さんの熱さがどこまで読者に伝わるかによっていると思う。その意味では大成功の一冊ではないだろうか。