はてなスター、武満徹、谷川俊太郎、アルフォンソ・リンギス

はてな村の住人の平均的関心領域とははずれた周縁で日々のおしゃべりを書き連ねているこのブログのような存在には「はてなブックマーク」もあまりつかなければ、したがって悪口も飛んでこないが、それでもときには人の神経を逆なでするようなコメントはある。そんなときには、このコメントをくれた御仁は俺を挑発するつもりなのか、それとも単に教養というものに無縁でものの言い方を知らないだけなのだろうかとつい考えを巡らしてしまう。よそのブログではてなブックマークがいっぱいついているのを読んでいると、やはり悪意を認めざるを得ないコメントがたくさん。この子はたぶんにリアルの世界ではいっぱい嫌な目にあって、そのフラストレーションをこんなところで晴らそうとしているんだなと、おびただしい蛸壺から毒を吐き続ける「可哀想な日本の私」の群れに思いをいたし、なんだかブログも楽しいばかりじゃないねと薄曇りの気分に移行したり。だから「はてなスター」には期待をしている。相互に☆を付け合わない限りコメントができないというのはよく考えられた仕組みだと思う。


ところでスターに関して「スターを付けてもらうおかげで、はてブが減ってしまうのが嫌だ」というメッセージがあったが、そう言いたくなる人の気持ちも分かる。この点をはてながどのようにさばこうとしているのかには興味がある。要は人気エントリーを「はてなブックマーク」で表示する現在の仕組みを「はてなスター」にも拡張する意図がありやなしやということだ。これについては最初に「☆はいくつつけてもいいですよ」と言っているのだから、スターシステムに数の競争を持ち込むことははてなの意図するところではないと考えるのが妥当だろう。


そうだとすれば、その方針に賛同の一票を入れたい。僕は自分の書くものがそれを読んで喜んでいただけるよう方に届いて欲しいと切に願うことについてはやぶさかではない。ぜひ、様々な方とつながる可能性を持っていたい。しかし、必ずしもアクセス数の競争をするのは本意ではない。そんな風に考えていたところに出てきた「はてなスター」には親近感が湧く。自分にとってそれがどんな風に働くことになるのかはまだよくは分からないが、しばらく積極的につきあってみたい。


話は変わるが、mmpoloさんが吉松隆の武満徹評を紹介してくださったエントリー以来、武満が気になる心持ちが断続的に続いている。武満が死去する前年に虎ノ門病院に入院していたときに書いた日記と料理のレシピを編んだ『サイレント・ガーデン―滞院報告・キャロティンの祭典』に斜め読み同然だが目を通した。癌病棟への4ヶ月の入院生活中に退院に向けて指を折るように数えながら、書き綴った日記。家族もその存在を知らず、遺品の中から出てきた原稿を出版物にしたものである。闘病記なので、読むのに辛さはある。しかし死病に向かい合う武満が自分と病気の間に余白を作るようにむしろ飄々と書き連ねる日記のトーンには、人に見せることを意図していない文章であるが故に覗く素顔の武満の、幅の広い人間性が刻印されていて動かされるものがあった。


サイレント・ガーデン―滞院報告・キャロティンの祭典

サイレント・ガーデン―滞院報告・キャロティンの祭典


この本を読んで心に残ることの一つは、見舞いに訪れる友人に対する武満の気配り、彼らに対する感謝の気持ちを表明する武満の心の細やかさだろうか。入院生活で見舞ってくれる知己に感謝の念を持つのは何も武満に限ったことではないかもしれないけれど、繰り返し訪れる友人の多さとともに、彼の口調は他人の心を信じる人の善意への救いである。それから、これはもっと枝葉末節なエピソードだが、ほとんどがクラシック音楽関係の見舞客の中で、繰り返し訪れている井上陽水の律儀さに「へえ」と思った。人間捨てたものではない。


この本の静かな前書きは武満の友人である谷川俊太郎の手になる。その谷川の詩の一編が、川崎洋のそれとともに今日の『mmpoloの日記』で紹介されている。この2編を同時に取り上げた、とても印象的なmmpoloさんの知識と感性。


■詩2題、川崎洋と谷川俊太郎(『mmpoloの日記』2007年7月14日)


その直後に僕にとってのお定まりのコースで『三上のブログ』を読む。
「日本語になるとすべてがなぜか湿っぽくなるのはやはり風土のせいなのだろうか。」という印象的なフレーズで始まる昨日のエントリーの口調は、三上教授にしてはなぜだかいつもより少し湿っぽい。ご本人は「ちょっと可笑しい」とお書きになっている。梅雨のない札幌でお書きになっていても、日本語のブログ空間に雨の気分は紛れ込むのかな。アルフォンソ・リンギス。手に取ったことがない。哲学の語彙がない者にも読める内容であれば挑戦してみたい気はする。


■本当の光(real illuminating) (『三上のブログ』2007年7月13日)


今日は高校野球神奈川大会は雨で中止。息子の学校が2回戦を戦うのを楽しみにしていたのだが、台風に文句を言うわけにも参りませぬ。朝、小雨のうちに港まで写真を撮りに行ってみたが、今日はほとんど空振りばかりだった。