緑弦楽合奏団の第21回定期演奏会を聴く

今年も緑弦楽合奏団の定期公演が青葉台フィリアホールで開催された。同合奏団の指揮をするT君のお招きに預かり、4年連続で足を運んできた。


今年の演目にはビゼーアルルの女」の例のメヌエット、マスカーニ 「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲、さらにはマーラー交響曲第5番のアダージェットなど、誰もが知っているポピュラーな曲が並んでいたが、これはプロのハーピスト、奥田恭子さんをお招きしたのが理由である。何れもハープがなければ演奏できない演目。その妙なる響きを楽しませていただいた。緑弦楽合奏団のことは昨年もこのブログで書き、それはそれまで誰に見せるともなく、時々まさに日記として書いていた『横浜逍遙亭』をパブリックに公表し始めた頃のことにあたる。あれからもう一年がめぐってきたのかと内心それなりの感慨がある。


名曲アルバム的な今回の定期のトリは、かのモーツァルト弦楽5重奏曲K.516の弦楽合奏版。このブログでも話題にした、小林秀雄の“疾走するかなしみ”だ。弦楽五重奏はよほど注意して音楽雑誌のコンサート欄を狩猟していれば話は別だろうが、なかなか聞く機会がない。この曲も生で聴くのは生まれて初めて。それが弦楽合奏版というところが、うわぁという感じだったが、面白かった。


さすがに大人数で演奏すると室内楽の微妙なニュアンスはどこかに飛んでしまい、第1楽章の主題から“かなしみ”は聞こえてこないが、これは無い物ねだりだろう。弾く方だって、それは十分承知の上で取り上げているのだろうから、ビッグバンドのよさを聴きたい。新しい何かに出会いたい。その思いはフォルテの分厚い響きによって満たされた。大きい編成で聴くと、この曲が同じト短調交響曲40番(例の道頓堀で小林が出会ったやつ)と兄弟であることがますますよく分かる。単純さの中に複雑さが宿るこの曲を、曲自身こう聞こえて欲しいと願うとおりに演奏するのは、マーラーよりも難しかろう。この楽団のコンマスNHK交響楽団の村上和邦さんで、さすがにこうした指導者がいる団体はアマチュアと言えども、それなりの演奏で聴衆の期待を満たしてくれる。果敢な取り組みに拍手。