坂東さんの講演を聴いてきた

昨日は坂東さんがスピーカーで登場する学術情報公開関係のセミナーに行ってきました。私はいま商業出版社にいるので、大学、学会系の方々が中心に動いているそれらの活動に関しては門外漢なのですが、とは言え、まったくよその世界というわけではありません。例えば、私が勤めている会社では大学の先生の手になる一般図書を年に何冊も出しています。大学の出版会に比べると、その比率は低いのですが、著者から見れば、自らのメッセージを世に問う一つの手段という意味では地続きです。そういう意味で、敵情視察なのか、お隣さんの様子拝見なのか分かりませんが、この分野に無知であるのはよくないとおもい出かけてきました。

この日のセミナーはオープン・アクセスを推進する立場にある人たちが、その現状を語り合うもので、門外漢が勉強をするのにもたいへんよい機会だと感じました。行って聴いてみてびっくりだったのは、私が想像していたのとはまるで違う現状の姿でした。インターネットやウェブの登場によって、さぞや大学関係の情報流通は活性化、グローバル化しているんだろうと勝手に想像していたのですが、それらを担っている組織は梅田望夫さんが言う「こちら側」にいて、既存のビジネスモデルのしがらみから抜けられずに四苦八苦している様子なのです。いや、たぶん四苦八苦しているのは学会や大学出版という従来からの関係者だけで、その人たちの視点からオープン・アクセスについて語るのがその発展にとって妥当かと言えば、そうではないということがよく分かったというのが昨日の私の体験でした。

その中で坂東さんのポジションは実にまか不思議でいい感じ。金城さんというビジネス参謀がついているし、将来が楽しみです。

坂東さんの「My Open Archive」は、『イノベーションのジレンマ』のクリステンセン教授がいう“破壊的技術”のポジションにあります。既存のサービス(個々の大学や学会による情報提供サービス)と比べると、性能的には劣っているし、ビジネス的にはべつになんてことないし、既存のプレイヤーからは見向きもされない。そもそも既存の大手プレイヤーは顧客のニーズと自社の利益を生み出すだけのビジネスの規模に縛られているので、そうした小さい萌芽期の技術やサービスには目もくれないし、手を出したくても組織の論理に縛られて手が出せない。しかし、その技術には先行する既存技術やサービスとは異なる次元で、それらを乗り越える潜在的な競争優位性を持っている、というのがクリステンセン教授の“破壊的技術”だったように覚えています(うろ覚えです。正確なところは本に直接あたってください)。

「埋もれた論文を投稿してもらうサイトです」という「My Open Archive」の説明に対して、会場には不思議な雰囲気が流れていました。現実に学会誌や紀要をつくっている人たちにとって坂東さんのサービスはおめめパチクリものなのですね。その雰囲気を感じ、また「Scribd」のようなシリコンバレーの事業者とさらっと、しかしきっちり手を結んでいるしたたかさを見て、「「My Open Archive」は破壊的サービスかも」と思ったのでした。

勝手な見立てですが、グローバルにつながり、ローカルなシェアを押さえることが戦略となる(なっている)のではないでしょうか。
坂東さん、がんばってね。