今までテレビ観戦したラグビー日本代表の試合でもっとも印象に残っているのは、80年代に松尾や新日鉄釜石が全盛期だったころの、かの地で戦ったウェールズ戦。ラグビー一流国に善戦した試合だったが、今回の日本代表の南アフリカ戦は、その記憶を一掃するほどの体験になった。
試合後数時間経った頃にザ・ガーディアンの記事を読んだら、あちらの読者のコメントがすごかった。量も熱気も。ワールドカップ開催地のイギリスでこの試合が話題になっている事実に関し、日本の掲示板に「ライバル国が負けたのがうれしいんだろ」といったコメントが載っているのを読んで、ガーディアンのコメント欄からいくつかを和訳してみようと思った。
- ワールドカップの歴史上最大の衝撃??? とんでもない、これはスポーツ史上最大の衝撃だった。なんとか持ちこたえが、ゲームの間中、心筋梗塞でおだぶつになるんじゃないかと思った。でも、畜生め、死んじまうほどの価値あったよ!
- ありえない。おいらが試合を観てたパブは理性を失っていた。イギリス人のサポーターは乱舞して、まるでイングランドがワールドカップを取ったかのようだった。なんという瞬間。そして、なんというときに彼らはやっちまったことか。次は日本で開催だよ!
- やば、やば、やば。イングランドのとき以上に叫んでしまった。すごいぞ、日本。
- どうして見逃してしまったんだ、なぜ!
- ワールドカップのピークが来るのがちょっと早すぎたみたいね。これ以上のエキサイティングなゲームがあるとは思えない!
- イングランドのファンだが、2003年のジョニー・ウィルキンスのドロップゴール以上のすごい瞬間だった。すべてのラグビー選手、一流のプロ選手からもっと下のレベルのアマチュア選手にまで希望を与えたと思う。できないことはないってね。
- まったくもって信じられない結果であり、ラグビーの試合だったことか! スプリングボックスのサポーターであり、また誇るべき南アフリカ国民であるはずの私は、不思議なことに、試合の最後の10分間、日本を応援している自分を発見することになってしまった。彼らはポゼッションに優れ、勇敢なゲームプランを組み立てそれを実行し、そして全般にわたって結果に対して貪欲だった。私はスプリングボックスが真の意味で目を覚まし、「格下」の国にこうしたひとりよがりで向かうのをやめ、この敗戦から前進できればと思っている。しかし、私はむしろ日本チームが今日したようなプレイを見せてノックアウト・ラウンドに到達するのを見たい。ふくれて、のろいスプリングボックスよりも。南アフリカはふつうだったが、日本は秀逸だった。
- 誇り高きイギリスのファンとして、また大会のホストとして、この国の全員にとって日本が二番目に応援するチームになったという意見に賛同するよ。ぜひ、悪くても準々決勝までは行ってほしい。
- この試合の素晴らしさを表す言葉が見つからない。スポーツイベントでの番狂わせという意味では、バスター・ダグラスがマイク・タイソンをノックアウトした以来の出来事だと思う。と言っても、南アフリカの出来が悪かったというのではない。日本がとびきりの、集中して早く、冷静できわめてミスが少ないラグビーをしたということだ。私はニュージーランド人で、オール・ブラックスのサポーターだけれど、この試合はこれまで見た中で最高のラグビーの試合だ。ラグビーファン、いやスポーツファンは必見だ。私は南アフリカの猛攻を期待し続けていたけど、日本は持ちこたえ続けた。私は、最後には文字通り涙だった。よくやった、日本。この試合はこれから50年語り継がれるはずだ。
- なんとすばらしい試合。信じられない。6歳の娘はラグビーの試合を見たことがないんだけど、最後10分間は日本勝てと絶叫してた。驚かされたのは、最後の最後で楽勝で引き分けに持ち込めたのに、彼らがスクラムを選択し、勝ちにこだわったことだ。勝ちを目指して最後の段階でボールを動かし、フィールドの幅をいっぱいに使う二つのカットアウト・パスでボールをとおし、トライを隅に決める……。最高の技。まさに受けるに値する勝利だよ、日本! まったくもってその価値あり。
- 機会があったら、最後のトライの際の日本の放送のアナウンスを聴いてごらん。日本語は一言もわからないかもしれないけど、その必要があるとは思わないよ……。
- ラグビーはそれほど好きじゃないんだが、すごい試合になると見てしまううちの奥さんが、日本が最後のペナルティキックを放棄し、相手選手が立ちはだかる前線でボールを回して、ついにはトライをとったのを見て感動し、ぽろぽろ泣き始めてしまった。観衆と選手が涙を流すのを見て、彼女もまた涙。歴史を作った感動の試合だ。
- 感動で震えてしまった。魂を揺さぶる試合だった。
- 60年間たくさんのラグビーの試合を見続けてきたが、これは最良のゲームの一つだ。日本は試合の間中、途方もない勇気を発揮して反撃し、最後にはペナルティではなくスクラムを選択するというとんでもなく勇敢な決定をした。まったくもって名誉の勝利だ。彼らがこの試合ですべてのエネルギーを使い果たしていないことを望むのみ。何を言ってるかというと、スコットランド戦は水曜日なんだ……。
- ものすごいスピードでプレッシャーをかけ続ける日本のプレイ・スタイルは他の多くのチームが見習うべきものだ。そして、彼らのスクラムは目に薬だった。ボールを入れ、フックし、出す。まったく乱れず、相手に息つく暇を与えない。次のプレイにすぐにつなげる。これはファンにも第三者にも好かれるスタイルのラグビーだ。愛さずにはいられない。
- 歴史上最も素晴らしいラグビーの試合の一つを観戦し、運転して帰宅する途中。どちらのファンでもない我々は、もちろん日本を応援した。彼らのキャンプを張っているのがうちの子の学校というのにも少々影響はされたけれど。なんというチーム、なんという結末! 帰りに日本のジャージを買ってしまった。
これらはすごい数の投稿から抜粋したものだが、驚いたのは、こういう前向きで日本に優しい投稿も混じってましたというのではなく、ほとんどすべてがこの調子だったことだ。ぜひ、映画にすべきだというのもあった。
ここに来る方は英語が得意な方が多いと思うので、原文を読んでみてください。
■Japan beat South Africa in greatest Rugby World Cup shock ever(2015年9月19日)
中にはニュージーランドや、南アフリカや、その他の外国からのポストも混じっているようではあるけれど、ガーディアンはイギリスの新聞だから、多くはイギリス人の投稿だと思う。私はイギリスには仕事で2度、短い期間行ったことがあるだけで、かの国の文化や人々のものの考え方はほとんど分からないのだが、これらの前向きで、美しい投稿を見ると、少なくともことラグビーに関するかぎり、イギリス人の民度の高さは恐ろしいものがあると思ってしまったことです。つまり、面白い試合を観たいという情熱が民族主義的態度を超えちゃっている部分、人を褒める際の、実に美しい言葉遣いと構文を選択してしまえるという部分について。それだけの稀有な試合だったということなのかもしれないけれど。