授賞式にて

『つながる脳』が自然科学部門を受賞した今年の毎日出版文化賞授賞式に出席してきた。会場では著者に初めて挨拶をすることができた。文学・芸術部門を受賞した村上春樹さんは欠席だったが、特別賞受賞の山崎豊子さんは車椅子で会場にいらしていた。

http://mainichi.jp/enta/art/news/20091126k0000m040073000c.html


授賞式後にはお定まりの立食パーティ。出版業界のパーティに参加するのは初めてだったが、参加者の醸し出す雰囲気は業界によって違うものだなと思った。僕が知っているIT業界や、上場企業の人間が入り乱れてのパーティと比べると、とても内向的な雰囲気がある。けっきょく、1時間いて、著者を除くと、誰とも名刺交換をすることなく、勤め先の人間と飲み食いをしただけだ。単に自分が業界のなかで浮いているというか、居場所をつくれてないだけかと思いきや、全体的に名刺を差し出す光景が少ない。それに受賞者の周りに人垣や、名刺を交換する列が出来ることもない。ただの一度の体験で、「この業界では」などと言うと間違えている可能性が大きいが、ともかくも、同じ日本の首都東京で、日本人同士が仕事をしながらも、そこには異なる共同体が幾重にも重なり合って存在してるのを実感するのは面白い。

勤め先のビルは上の階にコンサルティング会社、下の階に広告代理店があるので、それらの会社の人とは毎日エレベータで一緒になる。そのたびに、この人はどちらの会社の関係者だろうと密かなクイズを愉しんでいる。ラフな服装のクリエータとおぼしき人たちは別にして、二つの会社の関係者がジャケットにネクタイ姿である点は何ら変わらない。それでいながら、二つの階で下りる人たちは明らかにどこかが違う。それが証拠に、この人はこの階で下りる、下りない、というクイズはたいがい正解と相成る。

この話にオチはない、といいたいところだが、仕事や勤めという観点でいうと、今回のパーティは別にして、できればこの場所にいたかったな、ここにはいたくなかったな、という感慨に襲われることは少なくない。それを思うと場所(業界、会社、部署、チーム、オフィスそれ自体)との相性は仕事を決めるうえでかなり大きな要素であるとあらためて思う。吉本隆明は、「いい会社は?」と訊かれて「オフィスがきれいな会社」と、一見どんな逆説が隠れているのかと考えてしまうような答えをしていた。今年の学生の就職状況を見ていると、そんなことを考えるのは贅沢もいいところで、ともかく使ってくれるところがあれば御の字というのが全体状況。だとすれば、運よく就職先が決まったものの、将来場所との相性に悩む人たちはたくさん出てくるだろう。居場所を変わるエネルギー、あるいは居場所を変えるたくさんのエネルギーが発揮されますよう。大学最終学年の子供がいる身として、そんなことも考えた。