仕事に関するよもやまばなし

G社が来年から本の電子販売を始めると宣言した。

この話は、もう一年近く前に関係筋から内々に聞いていたので、意識の中では織り込み済みだが、うんざりという気分にはなる。G社様には今年たっぷりと振り回されたばかりだ。

米国で同社の「ブック検索」絡みの裁判があって、原告と被告が裁判所の仲介で和解することに合意した。G社は日本で商用販売されている本もWebを通じてただで読めるようにするんじゃないか、という憶測記事が日本の大手新聞社から出たこともあって、この件はテレビニュースにまで紹介されるほどの大騒ぎになった。おかげで、夏は僕もこの件でやたらと時間をとられた。
この和解の中で、G社側が今年の5月5日までに著者の同意なくスキャンした本については、著者と出版社が申請をすれば一冊に付き和解金60ドルが支払われることになった。勤め先でも、G社がすでにスキャンした著作がかなりの数あることが知れたため、古い著作を含めて著者にその旨を知らせる対応に追われた。弱小出版社では、この種のデータがきれいに整備されていないので、過去のことを調べようとするとかなり面倒な作業を強いられる。

このスキャンをすでにされた本のリストだが、G社がお得意のIT技術を活用して自動生成したものだろう、スプレッドシートが出版社毎に用意され、IDを使ってWebの当該サイトに入れば、自社の本で何がスキャンされているかが分かる仕組みが用意された。この辺りは「さすが」だ。

ところがである。もう5月5日から2ヵ月以上経ったある日あるとき、おかしなことに気がついた。件のリストの中身が変化している。登録されている書籍の数が増えているのだ。著者側は来年1月初旬までに申請を済まさなければならない約束になっている。それなのに、いつの間にか、そのことが誰にも表立っては知らされないままに、増えちゃっているのである。驚いてこの件で日本の出版社の窓口役をしてくれている業界団体のご担当にどうなっているのか確認をしようと電話をすると、担当氏は「ありえないことです」と電話の向こう側で絶句した。米国の和解管理者に問い合わせてもらったら、やはりG社のリストは必ずしも完成されたものではないということが分かった。では、いつまでにちゃんとした情報をもらえるの?と尋ねても、誰も分からない。正確な情報が入手できない。こうしたプロセスの不確かさがついてくるのは、ソフトウェアの世界では、走りながら考える、最終製品は製品化のあとにできあがるのが普通という感覚があるからだろうが、そういう文化にまったく慣れていない世界との接点に立たされる者にとってはたいへん。

この和解案については、ご丁寧なことに、最後の最後で修正の要請が当事者から裁判所に出て、審理が延びることになった。やれやれである。