二段跳びで二風谷へ

昨日は7時羽田発の飛行機に乗るために、まだ空も暗い4時40分に床を出た。やっと頭がしゃきっとしてきた頃にはもう新千歳空港にいて、笑顔の三上さんの出迎えを受ける。着陸直前の飛行機の小さな窓越しに北海道の大地がちらと見え、その瞬間、重たい曇天と緑が空港の周りを覆う感じは生まれて初めて欧州に旅行した時に最初に降り立ったフランクフルトみたいだなと思った途端、自分はどこに着いたのだろうと小さな幻惑のなかに閉じ込められた気がする。そして、その幻惑感はまっすぐに高揚感にもつながる。ここは明らかに日常の外、僕の知っている日本ではないというわくわくする思いだ。

三上さんの車で空港の外に連れ出されると、道の周囲はやはりドイツのアウトバーンを想起させるたたずまい。ところが、それが、あるカーブを曲がってからというもの、あちらこちらに4年少々を過ごしたニューヨーク郊外の道を連想させる風景が出現しはじめる。またあるときには、信州の高山地帯を思い出すことも。町中に入れば、そこは全国どこでも同じ、画一化された建材でつくられた町並みで、ここがまごうことなき日本であることを教えてくれる。傍らには東京で二度お会いしている、いや、インターネットの世界で毎日お会いしている三上さんがいて、いつもどおりの笑顔と包容力に、それはそれは大いなる安心の旅。しかし、心は1998年のニューヨーク州ハリソンへ、1980年のフランクフルトへ、東京・横浜の日常生活へととび、風景は二重、三重の複雑な色合いを帯びて見える。
そのようにして、僕は自分が知っている日本の外にひょいと出た。

三上さんが僕を「拉致」したその先はアイヌの聖地である「二風谷(にぶたに)」。運転をしてくださる三上さんの話に引き込まれるように聞き入るうちに、僕の意識はアイヌの世界をあれこれと想像しはじめる。千歳を南下し、海岸線に沿って日高の土地を目指し、放牧される牛や馬たちの姿を拝むようになると、二風谷から下ってきた沙流川(さるがわ)の河口へと着く。聖なる川の河口で写真を撮るうちに、東京から新千歳で一段、さらに新千歳から沙流川河口までの間に今度はアイヌ世界の方向へともう一段、ひょいと日常の外へ飛び出したなと、しっかり腑に落ちるものがあった。広い空の下、来てよかったなとつくづく思った。

今日はまた三上さんとご一緒する一日。最終目的地は登別温泉だ。