ケレン味の新鮮な味わい

小澤征爾の演奏になるブラームス交響曲第1番の話を書いたら、tsuyokさんからコメントがあり、僕の思い違いを正してくれたので、その話について。

先日書いたのは、ブラームス交響曲第1番の第4楽章の話で、クライマックスに小澤さんの演奏で楽譜にはないティンパニがなると書いたら、打楽器奏者のtsuyokさんがすぐさまYouTube上で当の演奏を探してくれた。ふだんYouTubeって見ないので、こんな映像までアップされているなんて思いもよらなかった。

http://www.youtube.com/watch?v=tKvQQajKg5Q


以前に聴いた演奏を時を隔てて聴いてみると想像していたものとは印象が違うのはしばしばありえることで、これは受け取る側が変わり続けている証左のようなものでもある。ただ、このサイトウ・キネン・オーケストラの演奏については、むしろ本当に忘れていたことのほうが多く、久しぶりに聴く録音からは一期一会というべき桐朋OBオーケストラの凄まじいばかりの熱気が画面から放射されるよう。この血管がはちきれそうな演奏を熱演と呼ばずして何をそう呼ぶべきかという類の好演である。

エントリーに書いた部分について言うと、細部について僕の記憶は無残なかぎり。覚えていた部分は、だいたいそのとおりだったとは言え、記憶から飛んでいた部分でもティンパニーのパートには大胆な修正が加えられており、それらはまったく覚えていなかったり、ある部分は耳にしてはっと思い出したり。いずれにせよ、YouTubeの映像は、20年ほど前に同じものを見たとき以上の好印象となって脳髄に上書きされたのだった。

話のネタにしていた箇所は、この前の繰り返しになるが、第4楽章のクライマックスで鳴らされるフォルテシモの「ラー・ミーミッファー」(YouTube映像の6分58秒)だが、僕が覚えていたこのフレーズの後半(同7分1秒)だけではなく、最初の「ラー」の音からティンパニのトリルがガツーンとぶつけられている。さらに、続く「ファソファファミファーレー」というコラール風旋律においても、楽譜通りだと、「ファー」と「レー」の頭に重ねてそれぞれ「バン」「バン」ティンパニーが四分音符で短くアクセントをつけるところが、この演奏では最後の「レー」(7分11秒)の部分で盛大なトリルのクレッシェンドが入っている。これにはびっくりした。

さらに、最後から数小節前、大団円に向けてバイオリンとビオラが「ドッシド・ドッシド」と推進力のあるリズムを刻むところ(7分11秒)でも、ティンパニがメロディに合わせて「ドンコド・ドンドコ」と打ち鳴らし、南洋の村祭りさながらの賑やかさ。通常ここでのティンパニは、最初に「バン」と打ってから、次の小節ではフォルテシモで鳴らされる管のロングトーンにロールで付いていくので、まったく異なる楽譜になっているわけだ。もっと若いころの僕は、こういうケレン味にうまく感情移入できず、「邪道だ」とか、「ゲテモノだ」とか言っていたはずなのだが、今聴くと悪くない。悪くないどころか、悪趣味に陥る寸前の時点で発揮されるケレン味こそが芸の真髄かもしれないと思ったりもしてしまう。