『ブログ誕生』刊行から2ヶ月

年が明けて、まだ一度しかブログを書いていませんが、ブログ仲間の皆さんのエントリーは読んでいますし、自分としては今までと同じようにブログの周りにいるつもりです。とは言え、月に一度しか書いていないのも事実ですから、「あいつもついに離脱したか」と思う方がいたとしても致し方ありません。ですが、自分としては、「ブログを書く回数を減らす」という方針を無理矢理自分自身に強いているというのが実際で、どちらかというと昔味わった禁煙に近い心境です。ブログは一度書くことを覚えてしまうと、書き続ける動機、静機が働く道具で、その点は常に自分自身との対話である日記とはまるで違います。

書かないと、明らかにうずうずしたり、心のどこかで、練習を休んでいるスポーツ選手のようにブログの筆が鈍るのが心配になってきたり、プロの作家でもないのに読んでくれている方々から忘れられるのじゃないかと心配になったり、申し訳ないように気分になったり、と感じるのは、書くことが具体的に他者とのコミュニケーションにつながっているからでしょう。ブログの功徳だと言わざるを得ません。

ただ、ブログという形式に、従来のメディアにはない「他者とのコミュニケーション」という魅力を見出したユーザーが、それこそコミュニケーションやネットワーキングをより全面に押し出したツイッターFacebookに向かっていき、その結果、利用をめぐるサービス間競争という点でブログの利用頻度が侵食されているのは自然といえば自然なのかもしれません。

すでに書いたように、勤め先で『ブログ誕生』という翻訳書を刊行したのですが、11月の終わりに書店の棚に並び始めてからというもの、売れ行きが心配で仕方がない。ともかく自分の企画で本ができるのは、生まれて初めての経験ですし、大成功とはいかないまでも、中くらいの成功はできればしたいし、そこまで行かなくても「それなりに話題になってよかった〜」という程度の感触は味わってみたい。

ところが刊行後1ヶ月半というもの、まるで売れません。面白いように売れるだとか、飛ぶように売れるという表現がありますが、『ブログ誕生』の場合は「面白いように売れない」のです。

出版社では市場に送った本がどのように売れているのかは漠然としか分からないのですが、それでも取次会社や書店の注文状況は見えるし、大手書店の中には全国の売上状況を書店向けに開示しているチェーンがありますから、ある本が好調か、不調か、どの程度好調か、どの程度不調かという感触ぐらいはかなりリアルタイムでわかります。ともかく、『ブログ誕生』は勤め先で今年出した数十冊の本の中でも1位、2位を争えるぐらいの売れなさ加減で、某大手書店の統計数値を見ていると、数日のうちに全国で1冊、また数日経って1冊、という感じ。「大成功とはいかないまでも、中くらいの成功」なんて、どういう夢を見てたんだかというありさまです。ときどき、刊行自体が夢だったのではないかと疑いたくなります。

こうなると、仕事をしている身としてはさすがに焦りますが、一方でブロガーの端くれとしては「今の日本では、ブログに対する興味って、そんな状況なの?」という点が気にもなります。この本の企画を立ち上げてから刊行に至るまでの間、ツイッターの隆盛を横目で見ながらも「ブログに対するブロガーの関心」がいまだ確固として存在しているものと思い込んでいたのですが、どうやらその認識が根本的に間違っていたということを認めざるをえない。この本の売れなさ加減は、ブログの現在の正直な反映ではないかと思ってしまう部分があるわけです。

当初から大勢の人たちが購入する本だとは思っていませんでした。心のなかで狙いをつけていたのは、もちろんブログを実際に書いている人たち、それにプロとしてメディアやコミュニケーションサービスの開発に携わっていたり、それらへの関心が大きい人たち。そうした人たちの中で、本好きな人たちにアピールしたいと考えたのでした。原著は悪くない。日本語版も、自分で言うのも何ですが、そのよさをしっかりと受け止めた作りだと思います。翻訳者とデザイナーはサイコーだし。

しかし、度を越して売れないとなると、そもそも最初の目論見のどこかに間違いがあったのではないかと反省せざるを得ません。3千円近い価格は大きなハンデです。ただでさえ、高額な本が売れないご時世ではあります。厚い本を好まない読者が増えていることは企画の最初から指摘されていました。しかし、それだけならばこうはならないだろうと思うのは、ブログ書評が予想していたほど出てこないことに対する違和感と直接結びついています。つまり、ブログを書いている人が減っている、ブログに対する関心が急激にしぼんでいるという事実についてです。

「そんなのあたりまえだろ」とおっしゃる方は多いでしょうね。つい先日もIT関係の仕事をしている知り合いから「『誰も知らなかったFacebookの賢い使い方』みたいなものじゃないと、そりゃ売れないでしょ」と、物言いの優しさのなかに世間知らずな私への呆れか哀れみかがはっきりと見えるまなざしで意見されたのでした。それはそうかもしれません。私のブログやブロガーに対する信頼が過剰だったのか、ドッグイヤーで進むIT産業の実態を軽視しすぎていたのか。そんな思いを反芻しながら、失敗は学びの母であるなどと内心うそぶくのがせいぜいの日々です。

それが、ところが。ちょうど一週間前に日経新聞の読書欄に大きな書評が載ったことによって状況が変わってきました。爆発的にとはいきませんが、「ブログを書く人には必読の書である」という好意的な書評によって、うんともすんとも言わなかった本が確実に売れ始めたのです。私の内心の安堵がいかばかりのものであったか、皆様どうかご想像ください。日経の編集委員である関口和一さんによる当の書評は、日経のサイトに掲載されていますので、よろしければそちらを御覧ください。

で、やれやれモードではあるのですが、新聞の書評でこの本が売れ始めるのは私の想定にはなかった展開でした。なんとなれば、この本に関する限り、ブロガーの書評でその存在が世に知られ、ブログやツイッターの連鎖でちまちまとではあってもある程度の部数は確実に売れる、というのが私の予想であり、目論見であったからです。既存メディアに対抗する存在にまで成り上がったブログの毀誉褒貶の物語を扱い、「メディアに対して保守的な人たちかからはあれこれと皮肉を言われるけれど、市民が自分の意見を自由に表現できるメディアが出てきたことには大いに意義があるんだよ」と主張する本が大新聞の書評で売れ始める。なんというか、うれしいけれど、ちょっと複雑な気分に包まれた『ブログ誕生』の誕生でした。